デスゲームの始まり
「また殺人犯を庇ったんだって? もうやめなよ。そうやって何でも寛大な心で許しちゃうの」
俺こと夏川春海は、幼馴染の藤堂京に諭されていた。
とはいえ、いつものことだ。またか、と思う。
俺はこの二年で十五回殺人未遂に遭ってきたが、全て通報せずにやり過ごしてきた。中には警察の目を逃れられなかったものもある。が、俺が減刑の嘆願をしたので犯人は皆早期に釈放されている。
それもこれも、守護天使様のおかげだ。
「ハルミンは運がいいからそれでいいかもしれないけど、いつか本当に殺されちゃうよ?」
京は笑いながら注意してくる。本気で心配しているわけではないらしい。
「まぁ別に俺がいいんだからいいだろ。それと、俺はハルミンじゃなくてシュンカイだ」
俺はヴァイオリンケースを背負い、会場を出る。京も同じくヴァイオリンケースを手に持ち、ついてくる。
「でも初見じゃハルミって読んじゃうでしょ? それにその方が可愛いって!」
「いやお前は読み方知ってるだろ。それと、俺は仮にも男だ。可愛さなんて求めていない!」
「男が可愛くなってもいいじゃん?」
「そういう奴もいるが俺は嫌だ。それより今日も音程ミスった。最悪だよ」
俺はつい二時間ほど前の悪夢を思い出す。
国内最大の音楽コンクールのヴァイオリン部門。
そこで俺は二次予選審査に出場してきたのだ。課題曲はリヒャルト・シュトラウスのヴァイオリンソナタ。第二楽章で致命的なミスをした。
「実は春海、音痴なんじゃない? ほら、間違えたとこ歌ってみなよ。暗譜してるでしょ?」
「そうだな。音程確認しながら歌ってみるか……」
そう言いつつ、俺はスマホのチューナーアプリを立ち上げる。だが、ほどなくして画面は暗転した。
【Paradiso Game】
画面には白文字でデカデカとそう書かれていた。
【残り人数100人。あなたの残高:10億アペイロン】
画面にはそうとだけ表示されていた。
「なにそれ? コンピューターウイルス?」
「いや、そんなはずは……」
「この時を待っていた!」
不意に近くの男が声を上げる。
「始まったか。【パラディーゾ・ゲーム】! 殺しがOKになるなんて、こんな嬉しいことはない!」
なんか不審者が騒いでいる。
だが、今『パラディーゾ・ゲーム』と言ったか? さっきの画面の表示と一致する。関係者か?
「見つけた! 国際指名手配犯の鴫沢俊一だ!」
すぐさま警察官が駆け付け、男に拳銃を向ける。
「離れよ、なんか危ないよ。春海」
「いや、なにかおかしい」
警察官の方の様子がおかしい。まだ男は何もしていないのに、必要以上に警戒している。
そして驚くべきことに、警官は警告なしに発砲した。
額に穴が開き、脳漿が弾け飛ぶ。
男はそのまま倒れ、血の海が広がった。
「な……」
「どういうこと……」
俺たち二人は悲鳴すら上げられず、思わず顔を見合わせた。
これはまさか、警官から生き残るデスゲームなのか?