六
六
久しぶりにホズミさんに会った。
傷の経過観察と義手の取り付けに伴う採寸など、諸々の手続きのためだった。
夏休み明けも学校に通うことにしたから、最低限生活に困らない程度の義手を取り付けてもらうことになった。
周囲の目線などはまったく気にならないし必要ないと言ったのだが、成長期が残っている状態で左右のバランスが悪いままだと他の部分にも支障を来す可能性があるらしい。
不本意ながらも私は、偽物の右腕を授かることにした。
「フック船長みたいになるのかと思った」
そう言うとホズミさんは、からからと笑った。
会わなかった期間は一月ほど程度だったのに、とても久しぶりに会った気がした。
能天気な笑い声が、懐かしい。
「若いのによくそんなの知ってるねぇ。……今は、義手の技術も発達してるから。ぱっと見は普通の手と変わらないのも多いよ」
「あれ、ないんですか? なんか、電気信号とか受信して動くやつ。うぃーんがしゃーんって」
されるがまま測定されたり計測されたりしていると手持ち無沙汰だったので、軽口を叩いて過ごした。
空いている左腕をぶんぶん振って拳を開いたり閉じたりしてみる。
「ロボットアニメの見過ぎだよ。まぁなくはないんだろうけど、まだまだ実用化は先じゃない?値段も、目が飛び出るくらいだろうし」
両手の親指と人差し指を合わせてまん丸を作ったホズミさんが、「目が飛び出る」のジェスチャーをした。
子どもよりも子どもらしい仕草に思わず頬が緩む。
そうして浮かんだ笑みを携えてホズミさんを見ていると、彼女は少しもの珍しそうに、未知のものを見るような顔でまじまじと私をねめつけた。
「うん?」
「さくら、変わったわね」
今度はどうも大人の落ち着いた声色で、そんなことを言われてしまう。
「なんだか、大人っぽくなった」
そりゃあまぁ、ホズミさんに出会った頃は生まれたばかりの赤ちゃんみたいなものだった。
その頃から比べたら、それなりには大人になったつもりだ。
「髪、切ったからかな。片手で髪結ぶの難しいから、ショートにしたの」
「いいじゃん、似合ってる。でもそれだけじゃない。なんか内側のー、こうー、雰囲気? いい感じになったよ」
「……なるほど?」
肩をくすぐるくらいの長さまで切ってしまった髪を指先でもてあそびながら、うまい言葉を選べなくて身振り手振りで大仰に表現を試みるホズミさんに笑い返す。
なんとなく言いたいことはわかった。いい感じであるのであれば、いいことだ。
「まぁとにかく、意外と平気そうで安心した。さくらはもう、大丈夫そうだね」
ホズミさんにしては珍しく、いささか真剣な面持ちではないか。
笑顔ではあるけれど今までの戯れがはらまれたそれとは違い、心底からの安堵が多分に押し出されている。
「心配してくれてたんですかぁ? 結構心配性なんだなぁ、ホズミさん」
「うっさいな。人がせっかく心配してやったのに」
最初からホズミさんは、面倒見がよかった。
記憶をなくして目覚めた私のそばで話を聞いてくれて、話をしてくれて。
まるで家族みたいに、お姉さんみたいに、さくらじゃない私を、まっすぐ見てくれた。……端から見たら、仕事さぼりに来てるようにしか見えなかっただろうけれど。
「うん。ありがとう」
目覚めてから、たくさんの人のお世話になった。
これからもきっと、私はいろんな人に迷惑をかけていくだろう。
だけど、だからこそ、その分──。
「私はもう、大丈夫」
今度は私が、誰かのために。
私の物語が、誰かの救いになるような。
そんな日を思って、今はただ、前を向く。