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二章 賢者の話


吟「賢者を語るにはまず彼の生い立ちを話さねばならないですね」


店「いや別に、本題だけでいいんだけど」


吟「話さねばならないですね!」


店「あー、押し切る気だな」


吟「賢者と言いますが、その血筋はごく普通の商人の息子だったそうです」


店「へえ、そーなんだ」


吟「ちゃんと聞いてくださいよ! 賢者の実家は副業として金貸しをしていたそうです」


店「なんか嫌なフラグ立った」


吟「その客の中に、ろくでもない呪術師がいて」


店「おう、フラグ立ちまくり。客選べや」


吟「もう少し長文で話をさせてください。ご想像の通り、呪術師は借りた金が返せず商人に呪いをかけたわけです。もちろん、逆恨み。商人は法律の範囲内ギリギリの金利でやってました。年利の計算もリボ払いの意味もわからなかった呪術師が悪いのです」


店「ごめん、あたし呪術師の味方したいかも。それで、どんな呪いなわけ?」


吟「呪術師は、商人、つまり賢者の父親に『何もかも忘れる呪い』をかけました。自分の債務を忘れさせるためでしょうが、一つのことだけを忘れさせるほど器用な術は使えなかったそうです。結果、どうなるかと言えば、商人は呪術師の借金はおろか、仕事も家庭も自分のことすら忘れてしまった。いわば廃人になってしまったのです」


店「やりすぎー」


吟「店も立ち行かず、その妻と腹にいた子は路頭に迷ったわけですよ。そして、呪術師の呪いは商人だけではなかった」


店「なんか勇者の話よりもずっと詳しいわ」


吟「いいじゃないですか。語らせてください」


店「っで、呪いがなんだって?」


吟「ゴホン、呪いですけど、父親が何もかも忘れる呪いをかけられた。すると、その反動は同じ血縁である息子に現れた。『何もかも忘れない呪い』がかかってしまったのです」


店「めっちゃ便利じゃない?」


吟「考えてみてください。商人の奥さん、賢者の母親なんですけど、生まれて間もない子どもがいきなり『お母さん、睡眠不足ですか? 母乳の質が悪いです』とか話しかけてきたらどう思います?」


店「キモ」


吟「ひどい!」


店「率直な意見として怖いわ」


吟「ええそうでしょうとも。賢者の母親も同じことを思ったようです。それでも腹を痛めて産んだ我が子。二年と二か月と三日は育てましたとさ」


店「数字細かくない?」


吟「賢者は何も忘れないので母親と過ごした日をちゃんと覚えていました。そこもまあ、母親が気持ち悪いと思った要因なんでしょうけど」


店「ふーん。じゃあ、その後賢者はどうなったわけ? 二歳じゃあまだ何もできないでしょうに」


吟「母親が息子を預けた先は学術都市だったわけです」


店「おう、話がつながった」


吟「学術都市のお偉いさんは、子どもだった賢者を金貨三枚、銀貨二枚、銅貨が四十一枚で引き取りました」


店「子ども売ったんかい! んでもって数字細かい!」


吟「母親も元はいいところのお嬢さんだったので、乳離れするまで子どもを育てただけがんばったほうでしょう。あと細かい端数は、税金と手数料を引いた額です」


店「なんか細かい数字云々を差し引いても、賢者とやらが自分語り大好きで話しているっぽい気がするんだけど」


吟「自費出版で本をだしていますよ。賢者のイメージが損なわれるから、焚書されましたけど。あっ、初版、貸しましょうか?」


店「いらねえわ。ってか、賢者って悲劇のイメージ強かったのに」


吟「そうですねえ。魔王討伐から戻ってこなかった英雄の一人ですから。戻ってきたのは勇者のみ。残り三人は戻らずと」


店「国が勇者を取り込もうと躍起になるのはわかるわ。時期女王の旦那にと、考えるわけだ」


吟「そして、魔王討伐から三年、とうとう女王即位とともに、勇者は結婚」


店「かー。勇者に王族とか務まるのかなあ」


吟「どうでしょうね。おねえさんの話を聞けば、娼婦の子。しかも力でのし上がったタイプです。国のシンボルとして置いておきたいだけで政治には触らせない、所詮はお飾りになるでしょうね。普通は」


店「そういうもんよね。まー、あたしは民が平和に過ごせたらそれでいいんだけど」


吟「平和に過ごせたら……そうですね。おねえさん、今の生活満足してます?」


店「ぼちぼち。悪くないんじゃない? もう少し、お客来てくれたら嬉しいんだけどね」


吟「……そうですか。じゃあ、続きいいですか?」


店「へいへい、どうぞー」


吟「学術都市のお偉いさんは、幼い賢者に天にも至るような大きな図書館の書物を隅から隅まで読ませました。正確には必要性が高い本を優先して学術都市にある約四十八パーセント、冊数にして三十九万五千七百七冊です」


店「こまけえな! ってかパーセンテージは曖昧なんだ」


吟「はい。学術都市では年間五千冊の本が増えますんで、日々変動しております」


店「そーいうことね。っで、賢者が賢いことはわかったけど、魔力がないってどういうこと?」


吟「呪いのせいですね。本来、何も忘れないというのは脳に負担がかかるものです。でも、彼の多少あったであろう魔力は、脳の負担をおさえるために常に消費されていました。彼の魔力がゼロというのはそういうわけです」


店「ふーん、魔力ゼロもわかった。でも、魔力なかったら魔術できなくない?」


吟「そこで、さっき言った学術都市の地下にあるアイテムが関係してきます」


店「おっ、さっき勿体ぶってたやつ」


吟「勇者が手に入れたアイテムは賢者の杖でした。賢者の杖はその強大すぎる力とともにある副作用があり、誰にも使えない武器として保管されていました」


店「なんか伝説の剣よりよっぽどまともなんですけど」


吟「そりゃ、最初から最終武器ですから。伝説の剣(仮)は、中盤で違う武器に変わっちゃいましたし」


店「初期武器としては頑張ったほうだよ。っで賢者の杖がなんだって?」


吟「賢者の杖の特徴としては、大気中にある魔力を吸い取り、魔術に変換することができます」


店「すごい能力。魔力切れ起こさないじゃない」


吟「でも魔力がある人間が使うと、逆に魔力を吸い取られてミイラになります」


店「呪われてない?」


吟「というわけで、危ないから地下迷宮に保管したわけです。最初は普通に博物館に安置していたみたいですけど、肝試しがわりに学生が入り込んで触るものだから犠牲者多数」


店「手が届かないところに置けばいいのに」


吟「学術都市の学生の悪ノリって、タチ悪いですよ。だって、宮廷魔術師候補うじゃうじゃいますもの」


店「あー、そっかー。下手に実力が高いから「自分なら大丈夫」って思っちゃうあれかあ」


吟「そうなんですよ。博物館の特別室に保管されている賢者の杖を手にできるくらい有能な魔術師で、なおかつそれだけ魔力が高い。でも毎年、何人もミイラになったみたいで」


店「先生困っちゃう。それで、魔術が効かないユニークミノを配置してたわけね」


吟「はい。そして、そこにあらゆる魔術書を覚えこみ、なおかつ魔力がゼロの賢者が現れたらどうです?」


店「賢者の杖、使うしかないね」


吟「しかし、そこで問題が」


店「……ちょっと待って。話読めたわ」


吟「あっ、読めました?」


店「うん。宮廷魔術師候補の魔術師たちが杖を狙う。その魔術師が倒せないようなユニークモンスターを配置する。配置したはいいけど――」


吟「ええ。学術都市の誰もが倒せなかった」


店「あほだわ」


吟「言わないであげてください。有能な学生がミイラになるのを防いだんです。ユニークミノさん」


店「そして、物理系勇者が現れたと」


吟「ええ。賢者を仲間にしたくばなんたらの口上つけて取りに行かせました」


店「ちょっと思ったんだけどさ、本来ミイラになっちゃうような恐ろしい武器なんでしょ。賢者の杖って」


吟「そうですね」


店「魔力がないとはいえ、賢者が死んじゃう可能性はあったんじゃ……」


吟「ははは。いくらかなり物覚えがいい人材がいたからといって、学術都市では魔術が使えるか使えないかが一番の条件なんです。ミイラになったとしても所詮はそれまでの養育費+金貨三枚、銀貨二枚、銅貨四十一枚の損失なんです」


店「こまけえな!」


吟「さてさて、もちろん英雄譚に賢者の記述があるように、賢者は賢者の杖を使えたことで賢者たる資格を得ました。でも、困ったことに、賢者の杖にはもう一つ呪いがあったのです」


店「賢者、呪われすぎじゃない?」


吟「仕方ないです。とはいえ、命を削るような呪いではありませんでした。魔力供給は杖から、魔術の術式は賢者本人から、その二つが組み合わさって魔術が練り上げられるんですけど――」


店「けど?」


吟「どんなモンスターを倒しても経験値ゼロ」


店「えぐっ。何それ、ありえなくない? ってことは、レベルは? レベルは?」


吟「レベルは1ですよ。後にも先にもレベル1で魔王に挑んだのは、かの賢者一人じゃないですかねえ」


店「うわー、ただでさえ魔法職って紙装甲なのに……。よくラストダンジョンまで行けたわー」


吟「そこは、装備やバフにくわえて、盾役がかなり関わってくる案件ですね」


店「盾役? 勇者パーティで言えば、聖騎士か」


吟「はい。聖騎士です。では次はその聖騎士の話でもしますか?」


店「うん。聖騎士って謎に包まれているって話だから気になるわ。誰も素顔を見たことがないって言うし」


吟「素顔はないですよ」


店「ない? どういうこと」


吟「だって、聖騎士ってゴーレムですもん」




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