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序章

『マウス二人芝居』という朗読劇のシナリオです。


〇古びた田舎の酒場


BGM:リュートの音楽


SE:からんからんと扉が開く音


店員(女)「いらっしゃーい。おにーさん、何にする?」


吟遊詩人(男)「とりあえず、何か軽めの酒と、おすすめメニューありますか?」


店「酒は果実酒かね。甘くて酸味が少しあるよ。果実酒に合わせるとしたら、シチューがあるけどどうだい? 白パンにサラダもつけるよ」


吟「じゃあ、一式頼みます。それと……」


店「それと?」


吟「おねえさんと話がしたいんだけど」


SE:テーブルを叩く音、もとい割れる音


吟「て、テーブルが……」


店「あいにく、うちでは飯炊き女はやってないんだよ。女が欲しけりゃ、隣町の娼館まで行きな」


吟「ああ! 違う違う。そういう意味じゃなくて。一緒にごはんを……」


店「なんだい? ナンパにしちゃあへたくそ過ぎて泣けてくるんだけどさ。レベル1の冒険者成り立てガキのほうがまだ上手くやるよ」


吟「ううっ。そこまで言わなくても……。レベルは8です」


店「8って。ここいらのモンスターに遭遇したら即死だよ?」


吟「レベルの話は置いておいて、ちょっとご相談したいことがあるんです」


店「相談?」


吟「これです。僕の職業」


SE:ハープの音


店「いや見りゃわかるって。初期装備っぽいけど。吟遊詩人なら間に合っているよ。さっきから聞こえているだろ、ほらあそこに」


BGM:リュートの音楽


吟「そーですねー。いや、別にここで弾かせてくれとは言ってなくて。客もいないし」


店「あんだって?」


吟「いえ、なんでもないです」


店「……吟遊詩人さまが私になんの相談なんだい? あたしの天使のような声に興味でも抱いたのかい?」


吟「……っえ」


店「冗談だけど、その顔は腹が立つ」


吟「あっ、ごめんなさい。ごめんなさい。お願いですから話を聞いてください。僕、困っているんです! 曲を作りたいんですけど、なかなかうまくいかなくて」


店「曲? それならあたしなんかに聞かなくてももっと適役がいるだろうよ。それこそ、あそこで弾いている奴とか」


吟「曲じゃなくて歌詞、内容なんですよー」


店「歌詞?」


吟「はい、もうすぐ女王の戴冠式じゃないですか? それに合わせて曲を作っているんです。題材からして、曲より歌詞が重要でして」


店「はぁん。英雄譚ってわけねえ。三年前だっけ? 次期女王の旦那様が魔王を倒した話」


吟「……はい。まさに英雄譚。これを題材にしない吟遊詩人はどこにいようか? いやいない!」


店「この店の端っこにいる吟遊詩人」


吟「うん……まあ、世の中には例外というものがあります。趣味でやっているとすごく困るんです。あほみたいな価格で受注する人がいるから、こっちも安く買いたたかれて……。でもって売れない吟遊詩人は、食いっぱぐれないためにも、王都に向かい売れ筋の英雄譚を語り小銭を稼ぎます」


店「俗にまみれてる」


吟「ゴブリン退治嫌なんです。レベル低い吟遊詩人なんてパーティ組めないし、汚れるし、怖いし。ソロやだ。盾役欲しい」


店「ちゃんと冒険者家業もやってんのね」


吟「このご時世、どこも不景気ですよー。歌だけで食っていけるわけないじゃないですかー。魔王がいなくなっても、モンスターは残りますし、被害を受けた地方の復興のために税金ガバガバあげられる。こっちの実入りは雀の涙」


店「ふうん。でもあたしに聞いたところでそんなにネタはないよ?」


吟「ここは勇者誕生の地のすぐ近くです。そこで酒場を営むとすれば、自然と情報は入ってくるものでしょう? 是非、勇者の話を聞きたいんです」


店「酒場は情報の基本だけどさー。あたしがここで働きだしたのは、魔王がいなくなったあとだよ。まあ、それでも多少はわかるけどさ」


吟「いいんですよ、ちょっとでも。素人意見が聞きたいんです。実は僕、勇者パーティについてかなり知ってます。ただ、一人の認識で見ると物語って偏るじゃないですか? 第三者の意見を聞いて、物語として上手くつなぎ合わせることができるか、そこが大事だと思っています」


店「あんた、几帳面だねえ。英雄譚っていえば、トカゲ退治をドラゴン退治に粉飾するってもんでしょ?」


吟「いやあ、最近の皆さんはリアリティを求めているんですよ。ちょっと矛盾があるだけで吊るし上げられて、最悪、街の掲示板に貼り付けられるんです。風評被害怖い」


店「あー、わかるー。尻を触ったから出入り禁止した野郎が、悪評流してきたとき困ったわ。なんとか話し合いでちゃんと、弁償してもらったけどね」


SE:指の関節の音、ボキボキ


吟「話し合い……ですよね」


店「うん、話し合い。うふふ」


吟「……ええっと、僕のお願い、聞いていただけますか?」


店「まあ、こっちも今、あんたしか客いないしね。でも、無料ってわけにはいかないね」


吟「少ないですが、お話代をば」


店「料理は二人分、私の飯をおごる形ってのはどう?」


吟「それだけでいいんですか?」


店「ええ、サービスしとくわ。あー、それと一つ、追加注文」


吟「なんでしょうか?」


店「勇者以外の英雄たちの話。そこらへん、聞きたいかな」


吟「お安い御用です!」


店「唾飛ばさないでよ。汚いわね」


吟「す、すみません。ではお願いします!」


店「じゃあ、酒と飯一式持ってくるわ。あたしは勇者の話をすればいいの?」


吟「是非お願いします。どうせなら、初期の勇者の話を。賢者を仲間にした話以降は、僕よく知っているんで」


店「わかった。そうさねえ、勇者っていうと、一般的には母が処女受胎で妊娠し生まれた神の子って話だよね」


吟「加えて伝説の剣に選ばれた中性的な美貌を持つ剣士です(棒読み)」


店「なんで棒読み? まあ、あんたは基本情報をよく知っているとして、皆が知らない情報と言えば、勇者の本当の親と伝説の剣の秘密くらいだけど」


吟「親に伝説の剣? なにかあるんですか!」


店「おや、食いついた。知りたいなら教えてやるよ、勇者さまの真実とやらをね」






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