霧の中にて
―まいったな・・―
家路に付いた矢先、突然の霧。
田舎の一本道なので道に迷うことなどないが、視界が悪くなると流石に怖い・・。
「よぉ!」
近くから声がした。
今まで気付かなかったが、直ぐ先に人影が見える。
「かぁー、この霧にはまいったねぇ。
兄さん、霧が晴れるまで俺と一休みしていかないかい?」
確かにひどい霧だ、男の誘いに乗ってみるのも悪くなかろう。
―良いですよ―
「そいつは良かった!」
男の声は明るくなる。それから男と2、3言葉を交わした。
他愛の無い会話・・。
年は幾つだの、住んでいるだの・・。
ただ、年上だと思っていた男が同い年だったのはビックリした。
「実は俺、人を探してるだ・・。」
不意をつかれた!
いきなり何を言い出すんだ?
対応に困っている僕に向かい、男は続ける。
「そいつはな、俺と一心同体よ!
ただなぁ・・、
なんつーか・・コミュニケーションが上手く取れなくてなぁ」
―はぁ・・大変ですね―
気の無い返事・・。そりゃそうだ、何て言っていいか困る。
「そう、大変なんだ!
奴はな、俺の存在なんてこれっぽっちも気にしねぇんだっ!」
ちょっと興奮してきたかな?
「しかもよぉ・・いつも何時も表舞台に立つのは奴なんだ。
俺は所詮日陰者なんだよ・・。」
なんかトーンが低くなった・・少しは励ました方がいいかな・・。
―まぁ、そんなに落ち込まないでくださいよ・・。
いつかきっと貴方も陽の目を見る日もありますよ―
「そんなことあるかなぁ・・」
折角励ましたのに益々声が弱くなる・・。
しょうがないなぁ。
―僕がその
「奴」の立場なら貴方と立場を入れ換えますね。
僕はね、裏方が好きなんです―
「本当かい?」
男は意外そうな声で聞き返してきた。多少は元気になってくれたかな?
―もちろんですとも!―
「いやぁ、嬉しいねぇ」
男は嬉しそうな声をあげる。
よしよし、良いことをしたなぁ。
「それじゃ、お言葉に甘えて・・」
男が近づいてくる。
―何かよくわかりませんが、元気になってくれて良かった。―
「ああ、ありがとよ!」
男が直ぐ目の前にいる。
が、影のままだ。
顔もなくただ人の形をした影・・・・。
風が吹いた。周りの霧を吹き払うかのような、強い風・・。
何処からともなく声が聞こえる。
「しっかり裏方してくれや」
あの男の声だ。
霧は晴れたハズなのに寒い。
目の前に広がるのは何時もの景色だが変だ・・。
同じ風景なのに色が無い。
モノトーンの世界。
ここは一体何処なんだ。