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天上界への第1歩

「おーい」


「んん…」


「おーい、プラナー!」


窓の外から私を呼ぶ声が聞こえる。窓から見下ろすと先程校舎であったタットの姿があった。


「降りてこいよ、さっきの話の続き教えてやるからさ」


さっきの話?なんだっけ、あぁ天上界がどうとか言う話の事か。正直興味が無い訳では無い、ただアルカも言っていた通りタットの話は大体ハズレが多いため期待もしていなかった。


「何?」


「何って、天上界の話だよ!お前も興味あるだろ?」


やっぱりその話か。


「ちょっと着いてこいよ、噂の真相を掴んでやるんだ」


時刻石を見る。いつの間にか紫へと色を変えていた。つまり既に夕時になっている。どうやら長い時間寝ていたらしい。


「タット、もう夕時よ明日でもいいんじゃない?」


「駄目なんだよ今の時間帯じゃなきゃな」


「ほら、早く行くぞ」


何故か急かすタットの後を追って歩いていく、夕時といえこともあり、外出している人もあまり見かけない。どれくらい歩いただろうか、結構な距離を登ったり下ったりしていて、タットにまだかと尋ねても、もうすぐだ。としか返答はなくただついて行くしかなかった。しばらく歩き続けると突き当たりに差し掛かかる。そこでタットは辺りを気にしながらこちらに振り返った。


「ここだ」


「ここって…」


古い看板には99番街道と書かれている。そして、立ち入りを禁止の札がいくつもぶら下がっていた。そこは昔、開発が進められている途中に地盤が弱かったのか落石が相次いだため打ち切られて封鎖されたと言われる場所である。


「何考えてんのよ、ここは危険だってママも言ってたわ」


「俺聞いたんだよ、ここが封鎖されたのは落石のせいじゃないって、実はここは天上界に繋がる道で、天上界に上がるのを禁じるために封鎖されたってさ」


「ふーん、で?」


「なんだよ、でって?」


「ソースは?」


「だから聞いたんだって」


「あんたね、ただ聞いた話をそのまま鵜呑みにするんじゃないわよ!もしその話がデマで、無理に入って落石にあったらどうするの?」


「そ、それは…でも今回は自信あるんだって!」


「そのセリフ3回くらい聞いたんだけど」


「はーん、さてはプラナお前怖いんだな?」


「何言ってるのか分からないのだけど」


「確かにこの街道は通称ゴースト街道って呼ばれてて噂じゃ幽霊が出るとか言われてるもんなぁ」


「そんな非科学的なもの居るわけない」


「ともかく、俺は行くぜお前はそこで待ってろよ。新世界へは俺が先に行くからよ!」


「はぁ…分かったわよ行くわ」


「なんだ、やっぱり行きたいんじゃないか」


「違う、あんた1人だと心配だからよ」


「なんだと、俺を馬鹿にするなよ」


「じゃあ、この真っ暗な街道をランタンも無しにどう進むか聞かせて欲しいわ」


「それは…」


99番街道の中は真っ暗で1メートル先も見えない。


「光の力よここに」


ッボ


プラナは、魔力を使い光の玉を出現させた。


「うわっ、眩しいなんだよそれ」


「光魔法よ、光と闇の魔法はかなり構築が難しいんだからあんまりもたないわ。さっさと行きましょう」


99番街道は街道と言ってもそんなに広くはなく、ただポッカリと開いた横穴のような感じだった。数百メートル程進むと直ぐに壁にあたる。


「ねぇ、本当にここなんでしょうね」


「間違いないって」


「でも何も無いわよ」


「おかしいなぁ」


しかし、ここで私も疑問を持った。この街道、天上も光魔法で照らしてみたが割としっかりとしていて、地盤が弱いとはあまり思えない、周りを見ても落石した後が無いのだ。なのにここは閉鎖された。つまり他に理由があったのではないかそう思えてならない。


「おい、これ見ろよ」


タットは、声を荒らげて必死に指さしている。そこには不自然に置かれている大きな岩があった。他の場所には岩なんて落ちていないのにこの壁の所にだけ大きな岩があるのだ。それに天上を見てもこの岩が落ちてきたような形跡もない、つまりこの岩は何処からか持ってきたものの可能性が高い。


「ここ見ろよ、何か引きずった跡がある」


見ると確かに跡がある。


「よし、任せろ!力には自信があるんだ」


「ぬぎぎぎぎ!ふんぬぅぅうう!」


タットは顔を真っ赤にして必死に押すが岩はまるでビクともしない。


「ちょっと変わりなさい」


「おいおい、俺でも無理なんだぜ?」


「こういうのはね、魔術で何とかなる物なの。見てなさい」


プラナは目を閉じると集中する。見えるこの街道に流れる魔力の流れが。その全てがこの岩の奥へと流れ込んでいる。プラナはその流れを変えた。


グゴゴゴゴ!


ビクともしなかった岩がうねりを上げながら動く音がした。


「すげぇ、流石優等生」


「タットに褒められても嬉しくないけど、どうやらあんたの感はあってたみたいね」


岩が置かれてあった場所にさらに奥に続く穴が現れた。魔力がこの穴の奥へと流れ込んでいる。ここに何かあるのは間違いなさそう。


恐る恐る中に入るとまたすぐ行き止まりになった。しかし、今度は数十メートルもない小さな部屋に出た。辺りを確認してみるが、見たところ何も無いし魔力の流れもここで止まってしまっている。


「くそ、結局何もねーのかよ!」


「待って、コレ見て」


よく見るとある壁の側面に何やら文字らしきものが書かれている。


「何だこれ?読めないぞ」


「これ…かなり古い文字列ね、私も見た事がない」


「何とかならないか?」


「現状では無理ね、1度帰りましょう。見て」


プラナはポケットから時刻石の破片を取り出すとタットの前にかざした。先程まで紫だった石はその色を白に変えようとしていた。


「げ、もうそんな時間か!かぁちゃんに叱られる!悪い、俺先に帰るわ」


タットはそう言うと、プラナから光源を貰いさっさと街道を出ていった。


「何も無い部屋にこの古代文字、何かあるのは間違いなさそうね」


気になるところではあったが、時間も時間だったので私も一旦帰ることにした。翌日、プラナは学校の図書館へと向かった。昨日99番街道で見つけた古代文字をメモしておいたのだ。それと同じものがないかしらみ潰しに本をあさっているのだが、いくら探してもあの古代文字と同じ文脈のものは出てこない。


「これも違う、これも違うわ…」


「だーれだ?」


急に視界が真っ暗になった。


「アルカね、ちょっと今忙しいの。邪魔しないでくれる?」


「ピンポーン正解、何してるのプラナ?」


「ちょっと調べ物をね」


「また、難しそうな本を見てるね。テスト終わった途端居なくなるから心配したんだぞ?」


「私が何処に行くかなんて一々言わないわ」


「えーん意地悪、私は何時でもプラナと一緒にいたいのに」


「ともかく、今日は少し調べ物があるから先に帰っててくれないか?」


「むすー、分かりました。帰るよー、明日は一緒に帰れるよね?」


「多分ね」


「約束だよー!あ、それと…」


「何?」


「あんまり危ないことはしちゃダメだよ?」


アルカのその言葉に一瞬ドキッとしたが、直ぐに心を落ち着かせた。落ち着け、昨日居たのは確かにタットと私だけだった。誰にも見られてないはずだ。


「大丈夫、しないよ」


「ならよし!じゃあまた明日」


「うん、また明日」


嘘をついてしまった。私は極力嘘は付かないようにしてきたのだが、この事をアルカに言えばきっと反対されるに決まっているからな。私はこの目の前の知的好奇心を抑えられないのだ。


しかし、結局図書館ではこれと同じ文脈のものは出てこなかった。おかしい、余程古いもので記録に残っていないものなのか、もしくは暗号の様なものなのか、はたまた知られてはいけない言語という可能性も…、いずれにせよなかなか骨が折れそうだ。


プラナは、学校からの帰り道でふと立ち止まった。


「こんな所に古本屋があったのだな」


見るからにボロそうな外見の本屋がそこにはあった。


「いらっしゃい」


中に入るとここの店主らしき老人がいた。私は会釈だけすると本が陳列されている場所へと向かう。そして、その本の中の1冊とメモしておいた文字が一致するものをついに見つけた。


題名は、天上人と地下へと追いやられた地底人。何ともファンタジーな題名だったが、読み進めていくとなかなか興味深い内容が書いてある。


「今から1000と200年前かつて我々も天上、つまり地上で生活していた。元々我々の種族は大気の魔力の流れをつかむことに優れていた。それから魔術という力を手に入れた我々は、その生活を豊かにしていった。しかし、魔術は人を豊かにするだけでは無かった。魔術の力を恐れた他種族は、我々の事を魔族と呼ぶようになりそして、弾圧が始まったのだ。ある村は焼かれ、子供でも女でも容赦なく殺された。我々は何とか逃げ延びたがもはや地上(ここ)には我らの居場所はないと悟った。そして、生き残ったものたちと地下深くへと逃げざるを得なかった」


地下?ここは、地面の中だって言うの?この本によれば私達は魔族と呼ばれる種族らしい、そして天上界、この本には地上と書かれてあるけど、そこにはほかの種族がまだいるのかもしれない。やけに喉が渇く、それに心臓も先程からバクバクと音を立てていてうるさいくらいだ。私…興奮しているの?今までこんなに好奇心をそそられることは無かった。でも私はほかの世界のことを知ってしまった。確かめたい!この目で地上の景色を見てみたい!


「おじいさん、この本下さい」


「ほぅ、珍しいね。こんな可愛子がうちの本を買いに来るなんて」


「ここにある本はどれも興味をそそられる物ばかりです。こんな本屋があったのならもっと早くに来ていれば良かったと思えます」


「ほっほっほ、それは良かった。そうじゃ、その本代金はいらんから、持っていくといい」


「え、でも…」


「その本はな、ワシの爺さんから貰ったものなんじゃよ」


「だったら尚更大事な物なのでわ?」


「ワシの爺さんがその本をくれる時にこう言っておってな。いつか、その本を欲しいと言う人が現れた時、その時は遠慮なくその者に渡しなさい。もしかしたら、ワシのいや私達の未来を変えることになるかもしれん、っとな」


「未来を変える…」


確かに、この本に書かれていることが本当ならこの停滞した現状を変えられるかもしれない。


「ありがとうおじいさん、この本大事にします」


「ああ、その本もこんな所にホコリを被ってあるより、ずっと喜ぶだろうさ」


プラナは、ペコリとお辞儀をすると古本屋を後にした。

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