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その日常は、本当に日常なのか?

「おーい」


「んん…」


「起きろー、プラナ」


誰かが私を呼ぶ声がする。何処かで聞き覚えのある声だ。


「プラナ〜もうとっくに起床の時刻だぞー」


「もう少し…」


「ったく、ダメだったらもう起きないと〜、プラナ〜起きろー」


どうやら見逃してはくれないようだ。私はゆっくりと体を起こした。


「お、ようやく起きたか寝坊助さん」


「おはよう、アルカ」


「おはようプラナ、あんたは成績は優秀なのにそういう所治さないと大人になったら苦労するよ」


「うん…」


「まだ寝ぼけてるの?」


「うん…」


「起きてますかー?」


「うん…」


「…っわ!」


「ひゃっ」


「あはは、びっくりした?」


「してない…」


「ごめんごめん拗ねないで!それより早く支度しないと時間だよ、さぁ起きて起きて」


親友のアルカに急かされるようにベットから立ち上がるが、まだ血が体に回っていないのだろうか、よろけて倒れそうになったところをアルカに支えられた。


「ちょっと大丈夫?今日休む?」


「んん、大丈夫」


一通り支度を済ませると家のドアを開けた。


「ほら、もう時刻石(カムラ)が傾きかけてる。急がないと遅刻だよ」


私が住んでいるこの集落は、外壁に穴を掘ってたくさんの人が暮らしている。その集落を照らすように中央で輝いているのが時刻石と呼ばれる珍しい石だ。一定の周期に色を変えながら決まった色の順番に変わり続ける。それで、今の時間を測る装置のような役割を担っている。因みに今の色は薄らと赤くなっている為ちょうど起床の時刻という訳だ。この時刻になるとたくさんの人が横穴から出て、家畜の世話をしたり、私たちみたいに学校に通ったりしている。


時刻石には、8色の色があり黒は就寝、赤は起床、緑が昼始め、青が昼中、黄色が昼終わり、紫が夕時、オレンジが夕暮れ、白が夜中、そしてまた黒に戻るのだ。この色が変わる時間もバラバラで1番長いのは黒と白だ。なので外で活動する時間の方が短い。


「おーい、何ぼーっとしてるの?ほら、行くよ」


「ん」


薄暗い長く急な階段を下へ下へと降りていく。しばらく降りるとひときは大きな横穴に辿り着いた。


「到着っと、えーっとこれをこうして」


中に入るとそこには石がいくつも並べてある。アルカはそれのひとつに手をかざすとその石が光出した。


「何やってんのよプラナ、貴方も早く出席しないと」


「分かってる」


この石は魔力に反応して光る石で、これを灯すことで出席の確認をとっているわけだ。因みに以前自分の石の他に他人の石を光らせて代理出席をしようとした生徒がいたが、直ぐにバレてこっぴどく怒られていた。どうやら魔力の微妙な違いを感じ取られたのであろう。そういう訳でイカサマは出来ない。


「はーい、皆さんおはようございます。今日は魔力の流れを掴む授業から始めます。教科書の35ページを開いて…」




リンリン


「あら、もう時間ね今日はここまで。明日はテストがありますから準備しておくように」


「えーー!」


「ねぇ、どうしようプラナ明日テストだって、私また赤点とったらお母さんに叱られちゃうよぉ」


「そうだね」


「もう、少しは心配くらいしてよね。プラナはいいなぁ成績優秀だし、先生達からは将来有望な魔術師(キャスター)になれるって言われてるし」


「別に、興味無いし」


「なぁプラナ」


そう話しかけてきたのは、クラスのお調子者のタットだ。


「お前、天上界(アバルタ)って知ってるか?」


「何それ?」


「知らねーのかよ、今俺たちがいるここ。実は天上界の下の世界なんだってよ!信じられるか?」


「また下らない文書でも見たの?男子は好きね、そういうの」


「違うんだって!本当にあるんだよ!」


「ちょっとタット!変な話をプラナに吹き込まないでよね。ポルカそういうのすぐ本気にしちゃうんだから」


「今否定したんだが」


「だって、この前だって21番街道にお宝があるなんて噂を信じて結局騙されたじゃない」


「う…しかし、確かめてみないと嘘かホントか分からないし」


「なんだよ、邪魔するなよアルカ」


「それよりいいのタット、先生に呼び出されてるんじゃないの?」


「げ、そうだった。あーあ、折角面白い話をしてやろうと思ったのによ」


「はいはい、あんたのそういう話もう何十回も聞かされたわ」


「天上界か…」


「ちょっとプラナ?本気にしてるんじゃないでしょうね?」


「え、いやまさか」


「なら、いいけど…もうすぐ次の授業が始まるわ。準備しなくちゃ」


プラナは、校舎の窓から外を見た。暗く中央にある時刻石だけが照らすこの集落、私はここで生まれそしてここで育ってきた。周りの大人たちもそうだ、この世界で当たり前のように生活してきた。だから誰も疑問には思わないし知ろうとも思わない、もしこの空間が閉ざされているものだとしたら?実はタットの言う通り別の世界があるのだとしたら?そう思うと少しワクワクしてくる。本当はもう少しタットからその話を聞きたかったのだが。


リンリン


「はい、今日の授業はここまでです。それでは気をつけて帰るように」


「あ、プラナさん。少し話があります」


荷物をまとめて帰ろうとした時、先生に止められた。


「何でしょうか」


「貴方の進路の事なのですが、第52学部のアークノットへの入学を考えてみたかしら」


アークノットと言えば魔術を専門的に学ぶために作られた、エリート達が集う魔術学校だ。各学校の首席やらが推薦されてさらに厳しい試験の後、ごく僅かの人しか入れない場所である。


「貴方なら校長先生も間違いなく受かるだろうとおっしゃっております」


「私、別に魔術にあまり興味はないです」


「しかしですね、貴方のその才能をみすみすドブに捨てるのはとても惜しいと思うのです。どうか、もう一度考えてみてください、それにこの学校からアークノットへの入学が決まれば、より多くの人材を確保出来るかもしれないのです。どうかこの学校の未来のためにも是非試験を受けてみて下さい」


私の為なんてものは二の次で結局は地位や名誉のために私を利用するに過ぎない、大人たちの勝手な言い分だ。


「…失礼します」


私は逃げるように部屋を出た。入口で再び石に魔力を送ると光っていた石が光を失う。


下校時刻はとっくに過ぎていて、殆ど下校している。校舎はいつもの活気はなくしんと静まり返っている。


「あ、きたきた。おーいプラナ」


「おまたせ」


「何の話だったの?」


「つまらない話し」


「ふーん」


「アルカはさ、楽しい?」


「え?何?急にどうしたの?」


「何となく気になって」


「うーん、楽しいよ。プラナとこうやって毎日学校に通って、何気ない会話したりこうやって一緒に帰ったり」


「そう…」


「どうしたの?今日のプラナ少し変だよ?」


「何でもない、気にしないで」


「よぉ、プラナにアルカ学校の帰りかい?」


「あ、ヤマおじさん」


うちの近くに住んでいる割と仲のいいおじさん、通称ヤマおじさん。この外壁に穴を掘って住居を作ったり増設したりするのが仕事で、うちの家も作ってもらったんだとか。そういう職人達のことをヤマ人と言うらしくいつしかおじさんの事をヤマおじさんと呼ぶようになったらしい。


「今日もお仕事?」


「あぁ、ハンサさん家の増設を頼まれちまってなぁ。全く休む暇がありゃしねぇ」


「おじさん、働き者だもんね」


「おうよ、掘って掘って掘りまくって掘る場所が無くなるまで掘るぜ!ガッハッハッ」


「ずっとここを掘り進めたら何処に着くと思う?」


「ん?そりゃこの先は13番街道だからそこに行き着くだろうよ」


「もっと先、ずっとずっと1番端の67番街道のさらにその先」


「んー、俺は難しい事は分かんねぇけどよぉ。こっちの反対側の街道に繋がるんじゃねぇか?ガッハッハッ」


「ちょっとアンタ、サボってないで早く手を動かしな!」


「おっといけねぇ、かぁちゃんに叱られちまう。じゃあな」


「うん、またねヤマおじさん」


「私もこっちだから、またねプラナ」


「さよなら」


アルカと別れると自分の家に戻った。時刻石は緑、つまり昼を指していた。


「お帰りプラナ遅かったのね、お昼は?」


「いらない」


私は2階に上がるとベットに横になる。なんだか眠くなってきた。プラナはゆっくりと目を瞑ると深い眠りにつくのだった。

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