ポインセチア・クリスマス
『ポインセチア・クリスマス』
重たい雲が垂れこめていた。今にも雪が降りそうだった。賑やかな遊園地の入口で一人の青年が待っていた。ダウンにジーンズを身に着けている。
「ごめん、待った?」
左側から長髪の女性が駆けてくる。青年畑野大輝は優しく微笑み、女性川合ともよに手を振る。
「いや、今来たところだよ」
ミニスカートに白いポンチョを着たともよ。大輝は内心で今日も可愛いなと思った。
「行こう」
ともよが大輝の手を握り、遊園地に入っていく。
「メリーゴーランドに乗りたいな。丁度、空いてるしね」
丸く木馬や馬車の乗り物が乗ったメリーゴーランドに向かう。二人はメリーゴーランドの馬車に座り、ブザーの音と共に回りだす。ともよは大はしゃぎで手を上にあげる。子供だなぁ。大輝は今年で三十五歳、ともよは二十七歳。八つ離れていればともよは妹のように感じるだろう。そっと身を寄せて優しく微笑み楽しいなぁと大輝は考えた。
夜になった。ともよは大輝の手を引いて誰も居なくなった劇舞台に向かった。舞台に椅子があるガランとした劇舞台だった。
「どうした?ともよ。いきなりこんな所に来て」
「大輝、結婚しない」
「はっ?」
大輝は目を見開いて呆然とする。ともよは握っていた手を離し舞台の上に上がる。スカートから足が覗くことも気にせずに、膝を曲げて、紙袋からポインセチアを出して大輝に向けて。
「畑野大輝さん!」
「はい」
大輝は背筋を伸ばして返事をする。ともよはキリリッと真剣な目にきゅっと結んだ唇、王子のように凛として言う。
「この花を受け取ってください」
赤く色づいた円錐形の葉っぱが集まったポインセチア。大輝は葉に銀の指輪が付けられていることに気づく。本気だと感じた。大輝はポインセチアを受け取って微笑む。
「僕で良ければ結婚してください」
ともよは目を大きく見開いて喜ぶ。大輝はポインセチアから指輪を取って指に付ける。きらりと輝く。
「大輝!」
ともよは舞台から大輝のもとに飛び降りて抱き着く。
「一生幸せにするわ」
ともよは大声で言う。
「それ、僕のセリフだ」
色々残念な大輝。これは僕が先にした方がいいよな。男として立つ瀬がない。
「ともよ」
目と目が合う。愛しいと告げている。恋しいと言っている。好きだと心が騒ぐ。空から白い雪が降って来る。イルミネーションに光が灯り辺りが淡く光る。
「綺麗だ…」
「大輝…」
二人の絡まる視線。体を寄せ合う。そして、深く、深く口づける。幸せな一時。そして、長く、長く口づける。
「ぷはぁ」
「大輝、大好き」
口づけを終えて見つめ合い、微笑む。
「愛しています」
「僕も」
クリスマス。イヴの今日。二人の恋人は抱き合って愛を確かめ合う。
メリー・クリスマス。