パッションフルーツプロテインと注意事項
「やあ、凜、昨日はよく眠れたかい?昨日約束したパッションフルーツの牛乳割りプロテインを作っているからね、牛乳はここで飼ってる牛の、今朝とれたてほやほやのやつさ!」
朝起きてリビングに入ると、悠とハデスがキッチンで朝食の準備に取り掛かっている。
シェイカーを振るハデスは相変わらずの早口の弾丸トークでキッチンから凜を狙撃してくる。
「プロテインを何で割るかと言うのは面白い題材でね、とは言え水以外で割るとエネルギー源を必要以上に取り過ぎてしまうから考えものなんだが、ちなみに今日は牛乳で割ることにしたよ、カルシウムが取れるだけでなく、ビタミンB、ビタミンDも取れる。言い忘れていたが、この牛乳は生乳ではないよ、既に殺菌済みさ、だから安心して飲むと良い」
「朝からうるさいですの」
闇と灯がリビングに入ってくる。先ほどまで外に出ていたようだ。灯が手に持っているのは卵だろうか?
「悠、これ、今日とれたての鶏の卵。冷蔵庫入れとくな」
「うん、ありがとう、闇の方はどうだった?異常なし?」
「またモンスターが数匹入り込んでいたの、でも、既に倒したから問題ないの」
「そっか、二人ともお疲れ様」
まだ朝の8時と言った所、すでに二人は何か仕事をこなしてきたようだ。
「二人とも何してたの?」
率直に何をしていたのか気になるので、聞いてみる。
「凜がのうのうと寝ている間に、私は周囲のパトロール、灯は家畜の世話をしていたですの。凜も少しは役に立つことやれですの」
相変わらず見た目の可愛さとは裏腹に可愛くない性格である。
「仕方ないだろ、ここに来てまだ1日目なんだ、何したら良いかもわからないだろうし」
凜を庇ってくれる灯、意外な展開
「なんですの、灯は凜の肩を持つんですの?」
「肩持つとか言ってるんじゃねぇよ、闇はさもう少し大人になれってことだよ」
「5歳年上だからって偉そうにするなですの」
「偉そうにしてるわけじゃねぇよ、お子様でもわかるように説明するなら、余計なこと口走るなって言ってんの」
「私はもうお子様じゃないですの!」
「実年齢の話じゃねぇよ、精神年齢の話だよ!」
喧嘩勃発、凜から言わせれば5歳年下の子と喧嘩できる灯さんも些か子供っぽいと感じる。
「こら、二人とも喧嘩しないの、朝ごはんできたから運ぶの手伝って」
「私がやります」
「じゃあ凜に頼もうかな、あの二人喧嘩するとしばらくはあのままだし。仲が悪いわけじゃないんだけど、よく喧嘩するんだよね」
「そうなんですね」
これは役に立つチャンス!料理の乗った皿をテーブルに運ぶ
今日の朝ごはんは、悠の作った目玉焼きとご飯、そしてこの黒い紙は、多分海苔だろう。
喧嘩がひと段落すると席に着く、
プロテインを作り終わったハデスが、4つのコップに分けて運んでくる。生前、一度もプロテインを飲んだことのない凜は少し味が気になっていたりもしていた。四人に運び終えると、ハデスは来客用の折りたたみ式の椅子と机を広げ座る。
「師匠、こっち来て一緒に食べないのか?」
「家族同士の祝杯の日に僕が水を差すのは良くないからね、僕はこっちで朝食をいただくとするよ」
少し灯が残念そうな表情を浮かべるが、直ぐにいつものクールな表情に戻った
全員が手を合わせ、今度は凜も遅れることなく『いただきます』を言うと、食べ始める
ひとまず気になっていたプロテインを一口飲んでみる事にした。
「酸っぱい」
レモンとまではいかないが思っていたよりも酸味が強い。
「おやおや、口に合わなかったかな。申し訳ないね、無理に飲まなくて良い、余れば僕が代わりに全部飲むよ。間接キスが嫌だと言うなら安心してくれ、別のコップに移してから飲むのでね。ただ、一つだけ言っておきたいのはプロテインを嫌いにならないで欲しい、今度は初心者向けのバナナ味を持ってこよう。飲みやすく甘いと評判だからね、大丈夫なはずだ。そう言えばプロテインの説明をしていなかったねプロテインというのは」
また長々と始まりそうなハデスの話、凜は急いで中断させる。
「いや、飲めないわけではないです。せっかく作ってくれたんですし、ありがたく頂きます」
「そうかい?なら良いんだけどね。凜は礼節のある子だね、話していて気分がいいよ」
「そう言っていただくと嬉しいです、ありがとうございます」
「そうそう、ひとつ言い忘れていた、凜だけではなくて、この場にいる全員に聞いて欲しいのだが、凜が転生者と言うことは口外禁止だ。いいね?」
急に声のトーンが低くなり、表情も硬く真面目なムードに
「転生者と言うのはこの国を作り上げた第一人者であり伝道師のような存在として、今や知らぬ者がいないほど大きな存在だ。転生者を祖とする宗教団体もある。軽々しく口に出すと凜の身に何が起こるかわからない、なので口外禁止だ」
首を縦に振る三人、凜も頷いた。
「凜、よく聞いてくれ。まだ実感が湧かないかもしれないが、君の前にいる三人はこの国のトップに位置する三人だ、当然関わる人たちも僕を含め一般人じゃない。ここにいる三人の一部の関係者には僕から話を通しておく、とにかく、良くも悪くも目立つようなことはしないで欲しい」
ここまで話すと、ハデスの表情はまたニコニコと優しい笑顔に戻った。
「と言っても、ここは王都からはだいぶ離れているし、周りには人は住んでいない、凜自身も魔法を使えないみたいだし、滅多なことは起こらないと思ってはいるけどね」
「わかりました、私の為にご迷惑おかけしてすいません、ハデスさん」
「脅すような口ぶりで悪いね、凜の置かれてる状況を今一度、認識して欲しかっただけさ。さて、話は終わりだ、楽しく朝食を取るとしよう」