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食殺と天使

ゆっくりと目を開ける。

チチチチと何かが鳴く音、水の流れる音も耳に入ってくる。地面は短い背丈の草が天然の芝生を作り、足元が少し冷たい。巨大な木がまばらに大きく立っており、葉をうっそうとしげらせ日光をほとんど遮断している。


「どう見てもここって森だよね」


ハーデースが最後に言っていたことを信じるのであれば、色々教えてくれる人がいるはずなのだが。

ガサガサと左手前の茂みが揺れると、中からツノの生えた3メートルはあるであろう黒い狼が姿を見せ、うなる口元からは粘性のあるよだれを垂らしている。


「う、そ、でしょ」


怖い、その一言に尽きる。トラックのクラクションにさらされても動いた体が、今は腰が抜けて立てない。

狼はジリジリと近づいてくると、凜の目の前で止まり、なんの躊躇もなく左腕にかじりついた。


「え!?う、アァーーー!」


今まで感じたことのない激痛、ショック死しないのが不思議なぐらいだ、身体中からあらゆる体液が分泌され、耳元で自分の腕を食らう狼の咀嚼音が聞こえる、グチャ、ボキ、一音一音が耳に入るたびに正気を失った自我がさらに狂っていく。あれ?なんでこんなことになってるんだっけ、あれ? 意識が遠のいていくのを感じる。視界が赤みを帯びてきた。

意識が途切れる少し手前、いきなりバーン!と破裂音が辺りに響く。


「ちょ・・大丈夫・・・ですの?」


プツリと凜は意識を無くした。


・・・・・・

・・・


「はっ!」


凜は目を見開き目を覚ます、息は荒く、大量の汗をかいていることが自覚できる。

周囲を見回すが、見たことのない部屋だ、本棚は綺麗に並べられ正面にある机の鏡はピカピカ、写り込んだ自分の顔は黒髪ストレート、目の色がおかしいわけでもなく、生前と変わらない見飽きた自分の顔だった。来た時とは違う服を着ている。


左側には小さな机が置いてあり、濡らしたタオルや水差し、コップが置いてある。椅子が引かれて置いてある所を見ると先ほどまで誰かがいたのだろうか?

とりあえず真っ白な空間でないとなると死んだわけではなさそうだ。


しばらく辺りを見回していると、ガチャリとドアが音を立てて開く。凜は入ってきた美少女の顔に釘付けになった。きらびやかな銀色の長い髪、見た者の時間を静止させてしまえるほど引き込まれる蒼く美しい瞳。主張の弱い白のブラウスは細く柔らかい体の曲線をふんわりと位置取っている。


「もう起きてたんだね」


声も耳をくすぐるような優しい波長。

目の前の美少女の挙動一つ一つが煌めいて見える、狼の恐怖と瞬きを忘れるほどだった。


「天使・・・」


「天使?まだ夢を見てるのかな」


目の前の美少女は少し困った表情を浮かべる。


「あなた、意識ははっきりしてる?自分の名前は言える?」


「凜です」


そう声を聞くと、目の前の美少女は、安心したように笑みを浮かべた。


「良かった、話せるぐらいには回復したみたいね、あなた何者?森の中で一人、何をしていたの?もう少し見つけるのが遅かったら、本当に死んでいたのかもしれないのよ」


凜が見とれて停止していると、美少女が水差しから水をコップに移してくれる。


「すごい汗ね、私が拭いてあげるより、意識もはっきりして動けるならお風呂はいってきたら?」


この言葉に凜は脳より先に口が動く


「いえ、意識がはっきりせず動けないので、拭いてもらいたいです」


清々しいほどの真顔、下心など微塵もないように見える。


「それだけ応答できるなら大丈夫な気もするけど、まあ、いいか。女性同士だし。じゃあ、服を脱いで背中向けて」


言われた通りに汗で肌に引っ付いた上着を脱ぐ。いきなりのラッキーイベント、すぐに美少女は背中を拭き始めた。

あ、やばい、幸せを感じる、正直に言うなら興奮する。

背中を拭き終わると、タオルを手渡され


「あとは自分でできるでしょ?」


背中しか拭いてくれないのか、などと若干拗ねる凜。


「私はそろそろ晩御飯の支度しなくちゃいけないから一階に行ってるね。晩御飯できたら呼びにくるから、ゆっくりしてて良いよ、替えの服はそこに置いてあるからね、さっき着せてた服と同じで私のだしサイズ合わないことは無いと思うんだけど」


この服この人の服なの?それは良きかな。ご飯もこの人の手作りとは楽しみだ。

そんなことを考えてる内に部屋を後にしようとする少女を呼び止める


「あの、助けてもらってありがとうございます。今更なんですけど名前聞かせてもらっても良いですか?」


「あれ、まだ言ってなかったっけ、私はゆう


悠さんかぁ、すごく可愛い。

じゃあね、と小さく呟くと悠は部屋を出て行く。


転生前、ハーデースは彼と言っていたので、案内役の人は男かと思っていたが、どうやら女性らしい。狼に喰われるとは聞いてなかったが、あれだけ可愛い子と一緒に住めるならお釣りがくるだろう。


汗を拭き、良い匂いのする服に着替える。横になるとまだ疲れが残っているのか眠くなり、もうしばらく睡魔に身を委ねることにした。


1階にて・・・


「凜を家に置いてもいい?」

「俺は悠が良いならいいよ」

「家に置くのは反対ですの」


プチ家族会議が起こっていた

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