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陽炎と異世界カタログ

りん、また明日ね」

「うん、じゃあね」


いつもの女子高校の帰り道、仲の良い友達と別れた後バス停で一人バスを待つ。

普段このバス停を使うのは凜ぐらいなのだが、今日は珍しく小学生ぐらいのショートヘアな少女が立ってバスを待っていた。


ベンチに腰掛け、待っている間携帯に目を落とし、好きな二次元女性アイドル育成ゲームを操作する。

ゲームを起動すると、画面にはガチャキャラ紹介動画が流れ、煌びやかな演出と共にアイドルの名前と「New departure」という二つ名が表示されている


「うわ、新ガチャ来てる。私の好きなアイドルユニットのキャラクターだ!持ってるガチャ石だけで出るかなぁ〜、あっ」


いつもは一人のバス停なので、気を抜いて気持ちを口に出してしまった、慌てて空いてる左手で口を押さえる。


『聞かれちゃったかな?恥かし〜』


ちらっと視線をやるが、少女はピクリとも動かない。何か妙だ。何も持たず、遠くを見つめている。音楽を聴いているわけでもなく、荷物は何も持っていない。身を乗り出して横から見てみると口元がボソボソと動き、何か話しているようにも見える。


普通の人がこの少女を見たとしたら、『やばそうな人だな関わらないでおこう』と思うだろう、だが、しかし、凜の胸には先に


『すご!この子めっちゃ可愛いじゃん、この歳にしては胸も大きいなぁ。お近づきになりたいな、話してみようかな』


という、青春真っ盛り、男の煩悩の塊のようなセリフが脳をよぎった。

何を隠そう凜は、女性でありながら女性を愛する、言葉を選ばず言うならば、ガチのレズである。黒い長髪、はっきりとした顔立ち、身長は平均よりも高め、圧倒的な美少女と言うには惜しいが、それこそ凜とした立ち振る舞いは多くの人の心を掴み、同性、異性問わず目を惹く身なりだった。


立ち上がり、少女の肩を指先でちょんちょんと叩く。


「いきなり独り言ごめんね、びっくりしたよね」


「・・・」


凜を認識していないのかガン無視を決め込まれる。次にかける言葉を考えているといきなり棒立ちしていた少女が道路へと走り出た。


ファァァァァァン!

「え、自殺?」


血の気が引くようなトラックのけたたましいクラクション。

考えるより先に体が動く。


少女は凜に突き飛ばされトラックが凜にだけぶち当たる。昔流行ったボカロを思い出しながらループ世界かな?などととぼけたことを考えていた。

・・・・・・

・・・



「残念、ループ世界ではないよ!まあ、行きたいなら行っても良いけどね」


はっと目を開く。


「え〜、では、定型文を読み上げます」


今、真っ白な空間の中、自分は椅子に座っている。そして、目の前にいるのは爽やかイケメン、超筋肉質、上半身裸のふんどし一丁、あきらかな変態が対面して座り、手に持ったブックカバーのついた薄い本は尚一層変態度を上げていた。


「あなたは死にました、え〜、ですが生前、感情を持つ生き物として死ぬ瞬間まで模範的であり、え〜と、創造物に精励恪勤せいれいかっきん、その人間性から来世を自身の手で決めるに足る存在だと我々神は判断しました」


厳格な文とは思えない間の抜けた一言を言い終わると本を閉じ、小さくため息をつく変態


「まあ、こんな所でいいだろう、いや〜僕も多忙でね。とっとと転生先を決めてくれ、はいこれ」


変態は何もないところから分厚い本を一冊出すと凜に投げ渡す、慌ててキャッチするがあまりの重さに顔を歪める。本の表紙には

『異世界カタログ』

と書かれていた。


「それを読みながらで良いから説明させてもらうよ。ここは転生前の空間、いわゆる夢と現実、精神と物質の狭間の場所って感じだね!」


なんか、生前に聞いたことのあるような説明


「そして、僕はハーデース、人間から見たら神と呼ばれる存在の一人にして、冥府の番人とも言われてるね」


神様?こんなやつが?見た目は普通の人間、確かに筋肉はすごいけど


「君に渡したのは『異世界カタログ』と言って、転生することのできる世界が複数乗っているよ、その中から転生したい世界を選んでくれ」


そう言われて、手元の本に目を落とす。

とても分厚い、六法全書ぐらいはある。一ページごとに1つの惑星が紹介されているみたいだ。

小さな文字が端から端までびっちりと書き込んである。


1・特殊能力を手に入れてダンジョン攻略!辛くも楽しい世界!きっと新しく楽しい生活が待っています!・・・・・・


最初の数行を読むと、ページをめくる


2・最強の盾で世界を屈服!攻撃せず敵を倒すってロマンがあると思いませんか?是非体験してみてください!・・・・・・


次のページ


3・男性オススメ!政権(聖剣)で無法世界を統治!・・・・・・


次のページ


4・死んだのに転生で生き返るなんてナンセンス!我々は新たな生き方Ghost lifeを応援します・・・・・・


なんじゃこれ?最後のやつなんて、転生させる気あるのか?


凜は一度本を閉じ、ハーデースの方に視線を移す。何やら椅子の上で変なポーズをとり筋トレをしている、腕の筋肉が目で見てわかるほど大きく動いていた


「ふざけてるんですか?」


「何がだい?」


左手でハーデースを指差し、右手で膝の上の本を指差す。


「面白い仕草をする子だなぁ、まずは僕のことについて話そう、今やっているこれはいわゆるプランクと言われる筋トレでね、見た目とは違って結構筋肉に来るんだよ、ちなみに今やっているのはその中でも」


凜は左手を下ろすと


「あなたの説明はもう良いです」


「そうかい、ではその本についてだが、『異世界カタログ』と言って転生することのできる世界が複数乗っていてね」


先ほどと全く同じ説明に、普段とても温厚な凜だが頭の中で少しブチッという音がした。

立ち上がり、本を地面にバン!と叩きつける。


「それはさっき聞きましたよ!そうじゃなくて、こんなの読めるわけないだろ!って言ってんですよ、文字だらけの数千ページあるこれをどう読めと言うんですか、しかも、求人募集みたいなことばっかり書いてあるし、ふざけてるんですか!?」


久しぶりに大きな声を出したせいか少し息が上がってしまっている。


「不思議な子だな、最初に問う事がそれかい?てっきり、自分が死んだのは本当か?とか死んだことについて聞いてくるのかと思っていたよ。まあ、話が早くていい、僕はそのカタログの中身全て覚えているからね、要望を言ってくれればそれに合った星を紹介するよ」


「それを、早く言ってくださいよ!」


「まあまあ、落ち着きなよ」


凜が座り直す


「じゃあ、言ってくれ、要望はなんだい?」


「剣とか銃とか無くても、モンスターと戦わなくても生きていけて、治安が日本よりも良くて、国同士が争うことがなくて、常識はできるだけ日本に近くて、お風呂とか清潔感の保てる物があって、美味しいものがいっぱいあって、女性のレベルが高くて、同性結婚を認めている世界が良いです、あ、あと住む場所も確保して欲しいです」


とっさに思いつくことを並べてみた。


「言うね〜後で何とかできるものは置いといたとしても、そんな星あったかな」


少し考え込むハーデース


「君は女性なのに女性が好きなんだね、まあ、感情のありようなど僕の知ったことではないんだけどね」


指をパチンと鳴らすと、足元に落ちていた異世界カタログが空中浮遊して凜の目の前で止まり、ひとりでに開く。


「その星なら、君の要望に応えれる気がするよ、モンスターは存在するがそれほど多くは無いし、定期的に天災モンスターというのが来るけど、四天王や聖女という人たちが国を挙げて倒してくれる。国のトップである女王は人格者で指示も高い、おかげで治安も良い、内戦や盗賊なんかも滅多に起こらないし出ない。風呂、温泉、文明もそれなりにあるし、魔法が使える世界だから目新しいことも起こるだろう。魔法がほぼ使えない人たちも多くいるから差別を受けることもないし、最近同性結婚も認められたんだ、女性のレベルというのも美しい人が多いはずだ」


開かれたページの左下には『現女王・かえで』と書かれた人物の写真が載ってある、知的で神秘的な引き込まれる美しさを感じる。


「もっと他の人の写真ないんですか?」


「申し訳ないが無いね。ただ、その星の人々は君のいた日本に住んでいる種族とほぼ同じ見た目をしているから、心配ないんじゃ無いかな」


「じゃあここにします」


「即答だね、思い切りのいい性格は好感が持てるよ。言語は日本語で読み書き、喋れるようにしておくからね、じゃあ早速始めようかな」


凜の目の前に漫画などで見るような魔方陣が現れ大きくなっていく。



「前の転生者と仲の良かった人の所に転生させるから彼から色々聞くと良い、住む場所も何とかしてくれるだろう」


え?彼ってことは案内役の人、男かよ。今からでも女性に変えて欲しい。

口に出して言いたいが、強烈な睡魔が凜を襲い、睡魔に逆らえず目を瞑る。


「あっ、やばっ」


ハーデースの慌てた言葉を聞く暇なく凜は転生を果たした。


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