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連鎖〜実力  作者: 崋山楽 
水水晶
6/10

第六話 水場

「ここだ。目的地は」

 卓也が足を止めたのは、小さな滝つぼだ。

「ここ…」

 かおりは卓也が指差した滝つぼを覗き込んだ。

 水面はは滝の波紋で荒れていて、水中は見えない。

「これを見せたかったんだ」

 そう言うと卓也は水に手を浸した。

「あ…」

「見えるか?」

 卓也が手を浸すと、水面の波は見る見る静まり水中を見通す事が出来た。

「これは何?」

「『水水晶』だよ」

「『水水晶』…」

 水中には透明な石が幾つも在った。

「こっちに」

 卓也はいったん水から手を抜くと、滝の脇までかおりを連れていった。

「ここに俺の『水水晶』がある」

 そう言うと卓也は再び水に手を浸し、一つの石を拾い上げた。

「卓也の『水水晶』」

 かおりは石を受け取り、手の上で転がした。

「『水水晶』の事は大体一人前になる前に教えられるんだ。俺は十歳の時だったな…」

「その時鬼島さんにお会いしたんですね」

「そうだ」

 卓也はかおりから『水水晶』を返してもらうと再び水の中に戻した。

「かおりの『水水晶』創ろうな」

「創るの?」

「そう。自分専用だからね」

 卓也はそう言うと手の水気を払い、一滴の滴のみ乗せた。

「よく視てろよ」

 かおりが集中している目の前で、卓也の手のひらに乗った滴は変化していった。


 まず、滴の周りに膜のような物が張った。

 次に、中の方が固まってきたようだ。

 最後に、中心に光が灯った。


「出来た」

「これが『水水晶』?」

「の、『核』だ」

「『核』?」

「『水水晶』は厳密に言うと『水晶』じゃない」

 かおりは卓也の言葉にコクリ、と頷いた。

「水に霊力を注ぎ込んで『核』にして、この山の霊気で大きくするんだ」

「『核』がこの山の霊力を取り込むの?」

「そうだ」

 卓也は今創った『核』を水に沈めた。

「外見が水晶に見えるから『水水晶』なの?」

「その通り」

 卓也は嬉しそうにかおりの正解を褒めた。

「じゃぁ。かおりの『水水晶』創ろうか」

「はい」




「そう…集中しろ…水を媒介にして霊力を物体化するんだ」

 かおりは、卓也の指示どうりに水に霊力を集中していった。

 ―――パアンッ―――

 かおりの手のひらで凝固しかかっていた水が弾けた。

「あ…」

 かおりはその破片を目で追った。

「失敗しました」

「ハハハ。こつを掴むまでそんなもんだ…大丈夫。成功するまで何度でもやろう」

 卓也は、失敗したことでかなりしょげ返っているかおりを慰めた。


「昼を持ってきたぞい」

 それからしばらく経ち、卓也によって半ば無理やりにかおりは休憩を取らされていた。

 鬼島が包みを片手に二人の前に降り立った。

「ありがとう。鬼島」

「…鬼島さん…」

「どうしたんじゃ?かおり。びしょ濡れになって」

「・・・・・・」

 鬼島の指摘通り、かおりは胸から上がしっとり濡れていた。

「これでも大分乾いた方なんだよ」

 卓也が答えた。

「あぁ。『水水晶』か…」

「そう。飛び散った欠片が水に戻ってな…」

 かおりが答えない代わりに卓也が答えた。

「ハハハ。卓也よりましだぞ…なんせ卓也は丸一日出来なくてな。ふて腐れてここに飛び込んだぞい」

「鬼島。やめてくださいよ」

 卓也は大笑いしている鬼島の話を遮った。

「卓也が…?」

 憮然とした表情で水を見ていたかおりがやっと鬼島に目線を合わせた。

「そうじゃ。まだ小さいガキじゃったがの…」

「やめてください」

 卓也は再び鬼島の言葉を遮った。

「何じゃ。人が折角思い出ばな…」

「それが、余計なことなんです」

「何じゃ。人の楽しみを…」

「なら。ネタにされている本人の前だけではやめてください」

「そんなの、面白くないじゃろ。その人間の前でネタにするって言うのが面白いんじゃ」

「…なんですか…悪趣味な…」

 卓也と鬼島の言い合いはそのまましばらく続いた。


 散々卓也を茶化し、鬼島は去って行った。

「たく…」

 卓也はそれを見送りつつ、横目でさっきまでしょげていたかおりの心がかなり浮き上がっていることを確認した。

(まあ。からかわれたかいはあったかな…)


「さて。昼飯食べるか」

卓也は鬼島が持ってきた弁当を指差した。

「うん」

かおりはそう言うと、支度をし始めた。


「まぁ。焦らない事だ。その内コツはつかめてくる」

「はい」

卓也はご飯を食べながら言った。

「今日出来なくても、また来るから焦らなくていいぞ」

「いいえ。今日中にやってみせます」

「だから、焦るな。焦ると出来るものも出来なくなるぞ」

「でも…」

「『でも』は無し。因みに俺は三回ここに通ってやっと出来るようになった」

「そんなに?」

「そんなに驚くなよ。俺を何だと思ってる?ただの人間だぞ?」

かおりは自分でも気が付かない内に、気分が完全に浮上し、感情を表に出せるようになっていた。


(かおりは気分が落ち込むと、顔が固まるからな…ここまで出ればもう大丈夫だな…)


「そうだよね。卓也、人間だもんね…」

「そうだぞ…この山にはまた近々こような。取り敢えず今日は、あと二〜三時間位で切り上げるぞ」

「はい。分かりました」

「よし。んじゃ俺は鬼島ん所に弁当箱返して来るから、腹がこなれたら自分の采配で始めてろ」

卓也はそう言うと、手早く弁当箱をまとめた。

「分かった」

「んじゃ。行って来る」

「行ってらっしゃい」




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