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連鎖〜実力  作者: 崋山楽 
水水晶
5/10

第五話 話

「ほれ。もっと腰を入れんか!」


 卓也とかおりが連れて行かれた先は、丸太小屋であった。

 連れて行かれると慣れた様子で裏手に回り、まき割りを始めた。

 しかし、裏手に回るのは慣れた様子であったが、まき割りは鬼島にあれこれと指示を出されていた。

 かおりはそんな二人の周りを歩き回り、卓也が割ったまきを集めたり小屋に入り二人のためになれない台所でお茶を入れたりした。


「かおりは手際がいいな。卓也なんぞ初めてここの台所に立ったとき、湯飲みを二つも割ったぞ」

 鬼島はそう言ってかおりの頭をなでた。

「初めてだったんだから、しょうがないじゃないですか!」

 卓也はそんな鬼島の言葉を聞き逃さず、反論した。

「何を言っとる。かおりは失敗せずにやり遂げたぞ!」

「・・・・・・」

 卓也はそう言われると黙ってしまい、まきをただ黙々と割っていった。


「あの、鬼島様…」

「様はよしとくれ様は」

「では、鬼島さん」

「はいよ」

「まきはもう十分ではないのですか?」

 卓也が黙々とまき割りを始めてしばらくすると、かおりが話しかけた。

「そうじゃね…十分じゃが、わしじゃまきを割るのはちときつい…こうして男手があるときに一年分ぐらいやってもらうんじゃ…」

「…湿気りませんか?」

 かおりはただ単純に、疑問に思ったことを口にした。

「大丈夫じゃ。しけってたら、術で乾かせるしの」

「なるほど…では、おき場所さえあればいくらでも有っていいのですね」

「まあ、ほどほどにせんといかんのじゃがの…」

「鬼島さん…?」

 鬼島はそのまま黙ってしまった。


「かおりや、わしがいくつに見える?」

「……」

「わしの年齢じゃ」

鬼島は卓也の働きぶりをボンヤリ見ながら言った。

「…分かりません」

「自分の感じで良いぞ」

「すみません。本当に分からないんです…私は、そういった目で人を見たことなくて…」

かおりは本当に申し訳なさそうに言った。

「…そうか」

そう言うと二人は再び黙ってしまった。


「ほい。ラスト」

卓也がそう言いながら、最後の木を割りおわった。

「ご苦労じゃった」

「お疲れ様です。卓也」

二人はそれぞれに卓也を労った。

「ほんじゃ、昼飯でも作るかね…かおり、手伝ったとくれ。卓也はその間休んでな」

「はい」

「…そうさせていただきます」

 かおりは鬼島と家の中に入っていき、卓也は木の木陰に入って行った。


「そろそろか…」

 しばらく経つと家から暖かい匂いが漂ってきた。

「よっ」

 卓也は休んでいた木の枝から飛び降りた。

「あっ、卓也丁度良かった」

 卓也が家から見えるところに出てくると、かおりが顔を出した。

「出来たのか?」

「うん。上手に出来たよ」

「良かったな」

「速く入って」

「はいはい」

 卓也はかおりに急かされながら家の中に入って行った。











「やっと目的が果たせるな…」

 翌日。

 朝早くから卓也はかおりを連れ立って歩いていた。

「鬼島の所行くと、毎回肉体労働だもんな…」

「それが会いたくなかった理由?」

「…まあな…」

 卓也は昨日寝るまで鬼島から肉体労働を強いられた。

 適度な休みはあったが、やはり辛かったらしい。

「俺が、先代に連れられて始めて来たのが十歳ぐらいだったかな…そん時からこき使ってくれちゃってな〜」

 卓也口では愚痴を言いつつ、とても楽しそうに話した。

「そう言えば、かおり」

「はい」

 卓也が鬼島の所でやった労働と、鬼島への愚痴のループが三回ほどになったときふと言った。

「年を聞かれなかったか?」

「え?」

「鬼島が自分が何歳ぐらいに見えるか、聞かなかったか?」

「あ、はい。聞かれました」

「どう答えた?」

「『分からない』と」

「そうか。…鬼島な、俺にも聞いてきたことがあるんだ。恐らくこの山に選ばれた人間全てに聞いてる」

「どうして?」

 卓也は少し歩調を緩めた。

「鬼島はな、この山の唯一の『生贄』なんだ」

「『生贄』?」

「そう。この山の『守人』の役割の一つが『生贄』なんだ」

 卓也はそこまで言うと一つため息をついた。

「『守人』の役割はこの森をあらゆる『事』『物』『人』から守ること…もちろんこの山自身の防衛はある。でも、ごく稀にそれにもれることがある」

「もれたモノからこの山を守るのですね…」

「そう…そして『守人』の最後の役割が『生贄』」

「…どうやって?」

「簡単だ。死んだらその瞬間身体が砂となりこの山に全て吸収される…その代わりと言ったら何だが、山から少し特典がある」

「特典?」

「そう。年を取らないって言うな…」

「年を取らない?」

「『守人』となったその瞬間から、二十年間な」

「二十年?」

「『守人』は期限がある。それが二十年だ」

「その間『守人』の肉体を衰えさせないのが、特典…」

「そう。山が何を思ってそうしているのか、未だに誰にも分からない…でも、この山に『組織』の人間が入ってから絶対に変わっていない事だ…」

「・・・・・・」

 かおりはしばらく口を閉ざし、何か考えている様子を見せた。

「鬼島さんは…」

「ん?」

「鬼島さんは後、どれぐらい…」

「生きられるか?」

 かおりはそれに頷くことで答えた。

「よくは知らないが、鬼島がここに来たのは六十代半ばだと聞いている…鬼島は自分の年を聞くくせに正解を教えてくれないから、周りの話から推理すると…そうだな…『守人』になって十年って所だな…」

「十年…」

「まあ。憶測だけどな。大はずれってことは無いと思うぞ」

「そう…」

「…かおり」

 卓也はそう言うと足を止め、かおりと向かい合った。

「かおり。俺は鬼島やお前が後どれぐらい『生きる』かなんて分からない…そして、自分のことも分からない。でも、人間…いや、生きているものはみんないつか死ぬ。遅いか、早いか。それだけの違いだ」

「・・・・・・」

「だからこそ、かおり。『今』を生きろ。たぶんそれが俺がお前に教えられる、本当に唯一の教えだ」

「『今』…」

「『今』は『過去』となり、『未来』は『今』となる。…今は分からなくてもいいでも、覚えておいてくれ」

 卓也は慈愛に満ちた目でかおりを見ていた。

「分かった。覚える」

 かおりは素直に頷いた。

「よし。そろそろ目的地だ行くぞ」

「うん」

 さっきまでの話が無かったように明るく言った卓也に、かおりも同じように答えた。

 卓也はいつの間にか出ていた沢の上流に向って歩いていった。



約一ヶ月ぶりの更新です…

最近、ネタのために陰陽師や宗教の本をやんでいるためか今回何かが混じりました…苦手な方すみません。

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