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第三話 出発

「め、冥界の王ハーデス……? 本当に?」

「何を今さら驚いている。我の話を聞いていなかったのか?」

「それは冗談だと思っていたといいますか……」


 あんなセリフを真に受けるヤツがいたら顔を見てみたい。

 弱りまくったスケルトンこんな大物だなんて思うわけないだろ!?


 召喚獣のランクはSを最上級にして、A、B、C、D、Eと続くが、冥王にランク付けをしたなんて話は聞いたことがない。


 俺の考えではSSSはあると思う。


 その場にいるだけで生物として圧倒的な格の違いを見せつけられ、低姿勢になってしまう。


「あんなに少しの魔力で復活できるんですね」

「十重二十重に対アンデッド、対界王の高位封印スキルをくらっていたからな。だが、わずかでも魔力があれば内に秘めたる我が力を呼び起こすことはできる。ランプに火をともすようにな」

「なるほど」


 よくわからんが頷いておこう。

 俺の知っている召喚獣の常識とはかなり違うが、冥界の王ならそういうこともできるのだろう。


「しかし、我の言葉を信じていなかったとは。まったく仕方ない主だな」

「いや主なんて恐れ多いっていうか……そんな気を使わなくていいんですよハーデス様?」

「召喚獣は召喚士を主を呼ぶのだろう? なあ、我が主」


 そう言ってハーデスは頭を下げた。

 おお、冥界の王が俺を主って呼んでくれてる。

 なんか感動するな。


「では正式に契約を結ぶとするか。契約の刻印がなければ召喚士とは言えんからな。ほら、腕を出せ」

「こうでしょうか? ハーデス様」

「そうだ。それと、かしこまるのをやめろ。様づけもなしだ。さっきと同じ態度でいい」

「わ、わかった」


 まだ緊張するがタメ口に戻す。

 ハーデスは俺の腕を掴むと、なにやら呪文を唱え始めた。

 意味はよくわからないが召喚獣を従えた証、契約の刻印が腕に刻まれる。


 痛くも熱くもないがどうも不思議な気分だ。

 これが魔力が体を流れる感覚なのだろうか。


「できたぞ。我の魔力を使って契約を完了した。これで我が主の命令には絶対に服従する。どのような命令であろうとな」

「そんなこと言っていいのか? 俺が変な命令したらどうするんだよ」

「召喚獣とはそういうものだ。我は約束を違えん」


 人間でも平気で約束を破るのに、冥界の王はずいぶんと真面目なようだ。


 しかしこれって俺が命令すれば犬の真似でも使い走りでも、なんでもやってくれるということか。

 いや、絶対にやらないが。


「では我が主、最初の命令を下せ」

「うーん、そうだな……って、あ」


 気がつくと太陽は山の向こうに沈み、星空が見えた。

 ヤバい。

 母さんが心配してるはずだ。


「今すぐ俺を家まで運んでくれ! 行先は指示する!」

「承知した」

「おっ、おおおおおおおおおおおおおおおおぉっ!?」


 ハーデスは俺を抱えると、タンッと地面を蹴った。

 ブランコを思いっきり漕いだ時の感覚が体を襲い、気が付くと空中にいた。


 眼下には今いた森が広がっている。


「我が主、指示を」

「あ、ああ」


 まるで鳥になったような気分で、俺は家の方向を指さした。


「ただいま母さん」

「おかえりなさいウィル。遅かったわね」

「ごめんごめん、練習に熱が入りすぎたんだ。それと紹介するよ。俺の召喚獣のデスだ」


 家に着いた俺はハーデスを紹介した。


 さすがに本当のことを言えないので、名前はデスということにした。

 ハーデスも魔力を抑え、見た目は普通のスケルトンに戻っている。


 ただ、裸なのもどうかと思うので、黒いローブだけは羽織ってもらった。


「我が主の母君だな。お初にお目にかかる」

「あらご丁寧にありがとう。ウィル、あなたどうしたの? 召喚獣は誰にも見せないって言ってたのに」

「明日には出発するし、母さんには見せとこうと思ってさ。いやー、こんなにしゃべれるスケルトンを召喚するのは大変だったなー」

「ふふ、見られて良かったわ。ひょっとして召喚術を使えないのに、わたしを気遣ってできるフリをしているのかと思っていたから」

「はははは、そんなわけないだろ。心配性だな」


 全部バレてた。

 と、とにかく明日には試験会場行きの馬車に乗らなければならない。


 俺は急いで夕食を食べ終えると、ハーデスと共に荷造りをした。






 ☆






「よし、まずは基本からだな」


 母さんに見送られた俺は、馬車の中で勉強をしていた。

 しばらくサボっていた分を取り返さないとな。


 ちなみにデジルは自分専用の馬車を手配したので同乗していない。

 俺の家より遥かに金持ちでムカつくと思っていたが、今回は助かった。


 一緒に乗り合わせた客もいないので、魔術書に集中する。


「ほう、人間界ではこのような手順を踏んでいるのか」

「ああ、どの世界から呼び出すかわかり易いようにな。それと契約の方法も五十年前に決まったんだ」


 俺のいる人間界に召喚獣を呼び出すためには、まず他の世界を選択するところから始めないといけない。

 選ぶのは『炎界イグニス』、『水界サーフ』、『樹界ドルグラン』、『光界エレメンティア』、『冥界ネクロ』の五つだ。


 ゴブリンなら炎界か樹界、スライムなら水界から召喚するのが基本になっている。

 そのために必要なのが魔力だ。


 魔力を燃料に召喚陣で世界と召喚獣を指定して、呼び出すのである。


 こちらの魔力が召喚獣を上回っているか、対価を捧げれば召喚獣と正式に契約することができる。


 契約の刻印は召喚士の体のどこかに刻まれ、あとは召喚陣と簡単な命令の言葉があれば、いつでも呼び出すことができるわけだ。


 ちなみに各世界には一体ずつ王が存在するが、人間界に召喚できたという話は聞かない。


 もしそんなことができれば人間界を揺るがす一大事、帝都を含めあらゆる国の召喚士たちが黙っていないだろう。

 人間界は丸ごと滅ぼすこともできるのだから。


 ……なんでハーデスはこんな糞田舎の森にいたんだ?


「なあハーデス、一つ質問していいか?」

「なんだ我が主」

「どうしてあの森にいたんだ?」


 沈黙。

 ハーデスから重苦しい空気が出ている気がする。

 うーん、これは地雷を踏んだか。


「悪いがその話に関して言うことはない。もちろん命令というなら答えるが」

「い、いや話たくないならいいって! 俺だって言いたくないことぐらいあるしな。忘れてくれ」


 ふー、すごく冷や汗を掻いた。

 俺の召喚獣だとわかっていてもまだ緊張するな。


 とりあえずハーデスが人間界に来た理由は聞かない。

 あと正体がバレないように気をつけよう。


 俺は馬車に揺られながら、再び魔術書に目を落とした。








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