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第二話 冥王との出会い

 

「いってえ……」


 切り株にすわり、痛むわき腹を押さえる。

 まだ怒りは収まらないが、森の中で木々のざわめきや小鳥のさえずりを聞いていると、少し気が落ち着いてきた。


 前々から衝突はあったが、さっきのは度が過ぎているだろう。

 証拠を集めて憲兵にチクッてやりたいが、今はそれどころじゃない。


 帝都へ向かう馬車は明日の朝出発する。

 それまでに召喚術に目覚めるか、母さんに本当のことを話さなければならない。


「……無理だな」


 都合よく召喚士の才能に覚醒してくれればいいが、そんなことはありえない。

 嫌というほど自分の無力さを味わってきたばかりなのだ。


 とても楽観主義になれる気分じゃない。


 そうやってモヤモヤしていると、前方から魔力の気配がした。

 なぜ才能のない俺にわかるかというと、親父がいた頃はいたるところに魔術用品があったので、魔力の肌をチクチク刺すような感覚を覚えていたのだ。


 ……どうしようか。


 この感じからすると、おそらく召喚獣だろう。

 ここで問題なのは魔力の気配が一つだけという点だ。

 つまり手綱を握っている召喚士がいない、はぐれ召喚獣の可能性が高い。


 呼び出した召喚士が制御しきれず逃がしたり、死亡すると、元の世界に帰れない『はぐれ』が出現する。

 しかも、ほぐれの大半は生命エネルギーを魔力に変換するために、人間や動物を襲うのだ。


 前にはぐれのキラーアントが湧いたときは、村の大人と隣街の召喚士が力を合わせて、なんとか撃退できた。

 どう考えても危険すぎる相手である。


 常識的に考えれば今すぐ村に戻るべきなのだが……。


「行ってみるか」


 自然と俺の足は前に向かって進み出していた。

 デジルのいる村に戻る気にはなれなかったし、好奇心とやぶれかぶれが混ざった気分で歩を進める。


 落ち葉を踏みしめて歩いていくと、開けた場所に出た。

 木々が幹の途中で腐り、何本も倒れている。


 そして、倒れた木々の中心に一体の骸骨がいた。


 きっと『冥界ネクロ』から呼び出されたアンデッド系の召喚獣、スケルトンだろう。

 ボロ布をまとい地面にへたり込んでいる。


 木の陰に隠れて観察する。

 俺に気づいているのかはわからないが、人間を襲う気力があるようには見えなかった。


 もしかしたら、魔力が切れかけているのかもしれない。

 召喚士からの魔力供給も、人間の生命エネルギーも吸っていなければ、当然の結果だ。


 やっぱり大人を呼びにいくべきかと俺が迷っていると、スケルトンが口を開いた。


「そこにいるのはわかっている。顔を見せろ人間」

「──ッ!!?」


 心臓が口から飛び出るかと思った。

 バレていたこともそうだが、そもそもアンデッド系の召喚獣ってしゃべれたか?

 どこから声を出しているんだよ。


 俺がアワアワしていると、スケルトンは急かすように言った。


「さっさと出てこい。それともこちらから来てほしいのか?」

「わ、わかったよ! いま行くって!」


 ずいぶん流暢に話すなと思いながら、スケルトンの前に出る。

 盾代わりに魔術書を両手で持って、胸をガードする。


「そう怯えるな。貴様を殺すつもりはない」

「じゃあなんだっていうんだよ」

「我が望むのは魔力の補給だ。少しでもで構わん。魔力を寄こせ」

「少しってそんなの信じられるか! そ、そう言って俺を殺すつもりなんだろ!」


 バッと後ろに飛び退いてファイティングポーズを取る。

 召喚獣といえども弱っているなら、ワンチャン勝てるかもしれない。


「勘違いするな。我が欲しいのはその本だ。微かだが魔力の気配がするのでな」

「これが……?」


 そうか、前の持ち主が召喚士なら、使っている内に魔力が染み込むこともある。

 葉についた朝露程度の魔力でも、いまのコイツにとっては必要なのだろう。


 魔力は人間でいうところの水と食料、これがなければ生きていけない。


「そうだ。寄こすなら貴様の願いを一つ叶えてやってもいいぞ。死に関係することなら三つでもいい」


 願いを叶えなんて高等スキルはAクラス以上の召喚獣しか持っていない。

 そんな嘘まで吐くほど必死なのだろう。


 ……いや、でももしかしたら。


「わかった。この魔術書をお前に渡す。ただ、その前に願いを言わせてくれ」

「なんだ? 殺したいヤツが思いついたか?」

「殺したいヤツはいるが今はいい。──その代わり俺の召喚獣になってくれ」


 俺は奇跡に賭けることにした。

 試験を受けるには召喚獣を連れていることが必須条件だ。


 それに復活したスケルトンがランクC、いやランクDの実力を持っていれば、試験を突破することだってできるかもしれない。

 魔力ゼロで召喚獣と契約するなんて聞いたこともないが、やるしかないだろう。


「…………」

「だめか?」

「カカ、カカカカカカカカッ!」


 スケルトンは無表情でこちらを見ていたが、カチカチと歯を鳴らして笑い出した。

 よほど可笑しかったのが、弱っていることも忘れて爆笑だ。


 森の中に不気味な声が響き渡る。


「そんなに可笑しいかよ」

「クク、いやすまん。召喚士ならともかく、我にそんなことを言った人間は初めてでな。少々驚いた」


 ぐっ、俺に魔力がないことを見抜いていたのか。


「ただの人間とは契約できないか?」

「普通は不可能だな。だが我は並みのアンデッドどもとは違う。特別に契約してやろう」

「……信じるぞ」

「案ずるな、冥界の王の名に懸けて約束は守る。それよりも名前を教えろ。主の名も知らずに仕えることなどできんからな」

「俺はウィルだ。ウィル・ステリオ」


 俺は名前を言うと、魔術書をスケルトンの手に置いた。

 魔術書は青白く光り、少しずつ魔力が吸収されていく。


「喜べウィル、貴様は最善の判断をした」


 第三者から見た俺は、はぐれ召喚獣に騙された間抜けに見えるだろう。


 それでもかまわない。

 俺はどんな手段を使っても召喚士になる。


 絶対に親父を越えて成り上がってみせるんだ。


 そう考えた瞬間、明確に空気が変わった。

 重苦しいプレッシャーが体にのしかかってくる。


「クク、クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」

「な、なんだこれ……」


 狂笑するスケルトン。

 その周りでは黒い影が渦を巻き、次々と骸骨のボディに飛び込んでいく。

 まるで地獄のような光景だ。


 あれ、これってかなりマズいんじゃないのか?

 俺は今更ながら、冥界の王という戯言を思い出していた。


 そして渦が晴れると、そこには文字通りの『王』がいた。


 目のくらむような王冠に豪奢なマント、それを当然のように纏う骸骨が。


「生き返ったぞウィル。我は冥界の王、ハーデス。闇と死を統べるものである!」


 スケルトンジョークに笑う余裕はなかった。

 ……冥界の王!?

 それって召喚獣の最高ランク、Sランク以上だよな!?







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