81 騎士団長の息子はプレデターと遭遇する
遭遇と対話
「さてと・・・自己紹介は必要かな『プレデター』」
夜間、人気の少ない道にて待つことしばし、フードを被ったいかにも怪しい背の高い人物にそう言うとそいつはくつくつと笑って言った。
「わざわざこんな場所で待ち伏せする物好きがいるとは思わなかったよ。君のその顔・・・もしかして最近有名のロスト子爵家の御曹司かな?いや、その面構えは御曹司なんて可愛いもんじゃないな」
「そうかな?そういうお前こそまさか噂の『プレデター』が女だとは知らなかったよ」
「へー、僕が女だってわかるんだ」
そう言いながらフードを取ると顔の半分が斬り傷と火傷跡のある女がニタリと笑って言った。
「君面白いね。僕の顔を見ても表情一つ変えないなんて」
「同情でも欲しかったか?」
「まさか。ただ普通は顔を歪めるものだけどね。気持ち悪いだろ?」
「価値観の相違だな。お前が例えどれだけ醜かろうと俺には関係ない。俺にとって大切なのは一つ。お前が俺から大切なものを奪う敵かそうでないかだ」
その言葉に女はますます笑みを深めて言った。
「うん、やっぱり君は面白いね。良かったら僕の物にならない?大切なコレクションとして飾ってあげるよ」
「お断りだ。俺はすでにアリスの物だからお前には一欠片もやれないさ」
「ちぇ、フラれちった」
すっと、手元からナイフを取り出してから女はそれを弄びながら言った。
「にしても、人間て面白いよね。こうして僕の見た目を見て怖がって排除しようとして逆に排除されるんだから」
「そうかい、それで?お前はわざわざそのためにこんな魔法を奪うようなことをしているのか?」
「まさかまさか、そんな小さな理由ではないよ。僕には大切な目標があるんだからね」
「目標だと?」
「うん」
くるくるとナイフでお手玉でもするかのように何本ものナイフが宙を舞う様子を見ながら女は言った。
「『プロメテウス』を殺すこと。それが僕の目標だよ」
どうやらこいつと『プロメテウス』は仲間ではないらしい。しかし目標が『プロメテウス』を殺すことでその過程でこうして魔法を奪っているのならなんとも惜しいことだ。こうして魔法を奪うことをしなければ共闘できたかもしれないからだ。まあ、狂人と共闘などごめんだが。
「殺してどうする?お前が新しく主になるのか?」
「それも面白そうだね。だけど僕はね『プロメテウス』を心から愛しているんだ。だから彼を殺して僕も死んで彼と共に永遠になりたいんだよ」
「そうか」
否定するのは簡単なことだ。狂人の戯言と流すことはできるが、しかし俺も一歩間違えていればそちらになっていたかもしれないので否定することを躊躇ってしまう。初めてシンパシーを感じたのがまさかこんな狂人とはどうやら俺はかなり狂っているようだ。まあ、前からわかっていたことだけどさ。確かに女の話す永遠には少しだけ魅力を感じてしまうのも事実だ。好きな人を誰にも汚されることなく二人でいつまでも永遠にいられるのは恋人たちの夢の一つだろう。しかし、決定的に違うことが一つある。
「お前がそうして永遠になるのなら、俺は子孫を残して未来に繋げる。大切な人との永遠よりも大切な人との未来を選ぶ。だからこそその言葉を否定させてもらおう」
「未来に繋げるか・・・君はどうやら僕に近い思考をしているみたいだね。そうして一時的に繋げることに意味なんてあるのかな?」
「無意味になるかもしれないな。だけどその子供の中で俺達は永遠になれる。これも一つの愛の形さ」
向こうも俺と同じ、想う気持ちが強すぎる人種のようだ。その想いには敬意を表する。そこいらの低俗な輩よりもよっぽど好感が持てる。だからこそこいつは俺が倒す必要があるのだ。似たような想いを抱く者同士でケリをつける。どちらの想いがより強いかを試すような戦いに自然と心が高鳴るのがわかる。誰かと戦うのにこんな気持ちになるとは思わなかった。こいつに勝てば俺の想いをまた一つ確実なものにできるという確信がある。だからこそ負けることは許されない。
「なるほど、僕はラッキーみたいだ。今夜君と出会えたことに心から感謝するよ。君はこれまでの有象無象と違って本物を持っている。だからこそ僕の糧になってくれないかな?」
「それはこちらの台詞だ。俺の想いが勝つかお前の想いが勝つかの勝負。負ければすべてを失うしかない勝負だが受けるか?」
「愚問だよ。僕は逃げない。君を殺して僕の想いの糧にする」
「なら、俺はお前を倒して俺の想いの礎になってもらう」
互いに負けるとは一切思っていない。自分の想いを心から信じているからこその自信。きっと常人にはわからないだろうが、それでも俺達はどちらの想いが相手より勝るかを試したくなる。俺のアリスへの想いがこいつに負けるとは微塵も思わないが、こいつを油断して相手にするほどに愚かではない。魔法を奪うことができる恐ろしい強敵、おそらく『プロメテウス』を殺すためにさぞ沢山の魔法を奪っているだろうからこそ、絶対に油断せずに戦うことにする。どちらかの想いを通すための戦いが始まろうとしていた。




