6 騎士団長の息子はお茶をします
アリスとお茶を
「ロスト様」
部屋を出るとメイドさんに話しかけられる。
「お嬢様がお庭でお待ちです。ご案内します」
「そうか。ありがとうございます」
能面のように表情が動かないメイドさんの後をついていく。貴族の屋敷というのは無駄にデカいので庭までもかなり歩かされたが、なんとかたどり着く。庭園とも言うべき手入れの行き届いた庭に思わず感嘆の息を吐きそうなるが、その前に視界に映った光景に思わず声を忘れてみいってしまう。
ティーカップを持ちながらお茶を飲むアリスの姿は相当絵になっており、俺はそれをしばらく無言で眺めてしまう。と、そんな俺の視線に気づいたのかアリスは俺を見て表情を輝かせて言った。
「お待ちしておりましたエクス様」
「お待たせしましたアリス様。遅くなってしまい申し訳ありません」
「そんなこと・・・!むしろ、私こそお手間をとらせて申し訳ありません」
「手間などではありません。むしろ有益な話ができました」
「有益ですか?」
「ええ、アリス様を妻として私に下さいとお願いしてきました」
「ふぇ!?」
その言葉にティーカップを落としそうになるアリス。可愛い反応を見守っているとアリスは照れながら言った。
「あ、あの・・・お父様はなんて?」
「昨夜と同じです。『アリスを泣かしたら許さない』当たり前のことを言われました。ちなみにお義母様はアリス様の意思を尊重するそうです」
「そ、そうですか・・・って、え?お義母様?」
「ええ、ミスティ公爵夫人も同席されていたのです。その時にそう呼べと言われたので」
「そ、そうですか・・・あ、あの!」
そこでアリスはしばらく視線を泳がせてから意を決したように言った。
「エクス様。私のことは、その・・・名前で呼んでくださいませんか?」
「それは呼び捨てでいいということですか?」
「は、はい・・・」
嬉しい申し出だが俺はしばらく悩む素振りを見せてから言った。
「変わりに一つだけ条件を提示してもいいですか?」
「条件ですか?」
「はい。私のこともエクスと呼び捨てにしてください」
そう言うとアリスはしばらく恥ずかしそうにしながらも頷いて言った。
「わ、わかりました・・・エクス」
「はい。ありがとうございますアリス」
そう言うと嬉しそうに「えへへ・・・」と笑うアリス。なんだこの可愛いすぎる生き物。可愛い!おっと、いけない冷静にならないとな。
「そ、それではお茶にしましょう」
「はい。あ、そうそう。アリスはクッキーはお好きですか?」
「クッキーですか?はい」
「でしたら良かったらこれを」
そう言ってから俺はここのメイドさんに預けていたクッキーの袋を渡す。それをアリスは見てから驚いたような表情を浮かべて言った。
「これは・・・見たことないブランドのものですね」
「ええ、そうでしょう。私の手作りですから」
「手作りですか?エクスの?」
「はい、もし嫌でしたら下げますが・・・」
「そ、そんなことないです!むしろ嬉しいです!」
そう声をあげてから、「あっ・・・」と恥ずかしそうに顔を伏せそうになるアリスに俺は笑顔で言った。
「ありがとうございますアリス」
「は、はい・・・早速食べさせてもらいますね。エクスにもお茶を」
そう言うとメイドさんは俺の分を用意していれてくれた。俺はそれに口をつける。上質なものなのかすごく香りがいい。貴族的な味覚なら普通だが、前世的味覚ならスゲーいいやつとしかわからないレベル。もちろんそんなことは顔には出さずに笑顔で言った。
「美味しいですね」
「・・・美味しい」
俺と同時にそんな言葉が聞こえてくる。見ればアリスが半分になったクッキーを眺めて呆然としていた。
「これ・・・本当にエクスが作ったのですか?」
「ええ、お口に合いましたか?」
「は、はい。すごく美味しいです・・・」
「でしたら良かったです」
エクスとしては料理スキルや知識はほとんどないが、前の人生はそこそこの料理スキルと多少の知識があったので好感度アップのために作ったクッキーは好評のようで何よりだ。アリスはクッキーを食べては幸せそうな表情を浮かべるのでそれを見ると嬉しくなり思わず微笑んでしまう。そんな俺にアリスは不思議そうに聞いてきた。
「どうかなさいましたか?」
「すみません、あまりにも美味しそうに食べてくださるので嬉しくなったのです」
「そ、そうですか。お恥ずかしいです・・・」
恥ずかしそうに微笑むアリス。俺はそんなアリスを微笑ましく見ながら言った。
「アリスが私の作ったクッキーを美味しそうに食べてくれるだけで頑張った甲斐があります」
「と、とっても美味しいです」
「ええ、見ればわかります」
「えへへ・・・」
照れたように微笑むアリス。そのあまりの神々しさに思わず俺は心の中でシャッターを何度もきってしまう。ああ、こういうものこそ萌えという感情なのだろうか。今まで生きてきてリアルの人間でこんなに可愛いと思えたのは初めてなのでこれはきっと本物の感情だろう。偽物だとしても変わらないがやはりアリスのことを可愛いと思うし愛しく思う。
そんな風にして二人でお茶をしていたが、翌日は学校なのであまり長居できないことが少しだけ心残りだった。




