56 騎士団長の息子は婚約者と両親を会わせる
両親との挨拶
「お、お久しぶりです。ベクトル様、マキナ様」
「久しぶりですねアリスちゃん。そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」
当日、緊張しながら我が家を訪れたアリスを母上は微笑んで出迎えた。そんな母上の笑顔にいくらか落ち着いた様子を見せるアリスに対して父上が笑って言った。
「はは、美人さんになったね。君がエクスの婚約者になったと聞いた時は驚いたけど、義理の娘になるのは歓迎だよ」
「ありがとうございますベクトル様」
「お義父様で構わないよ。どうせそう遠くないうちに我が家に嫁入りするのだから」
そう笑う父上のテンションに少しだけ驚きつつもアリスは頷いて言った。
「ありがとうございますお義父様。それと遅くなりましたが、私、アリス・ミスティはエクス・ロストとご婚約させていただきました。今後ともよろしくお願いいたします」
「ええ。よろしくね。とりあえず座ってください」
「はい」
そうして俺と隣り合うようにして座るアリス。対面には母上と父上が座っている。
「それにしても、よくエクスのプロポーズを受け入れましたね。少々強引じゃなかったかしら?」
「いえ、凄く優しくて嬉しかったです。それに私も、その・・・エクスのことが好きだったので嬉しかったのです」
「あらあら。ふふ。相思相愛なのね」
嬉しい言葉に思わずニヤケそうになるのをなんとか抑える。すると、母上は微笑んで言った。
「じゃあ、これからは時々いらっしゃいな。ロスト子爵家の嫁として必要なことを教えますから」
「は、はい。頑張ります!」
「そんなに気張らなくても大丈夫ですよ。エクスはこの人と違って愛する者の機微には敏感ですから」
「そ、そんなに私はダメか?」
少しだけショックを受けたように聞くと父上に母上は頷いて言った。
「ええ。あなたはお仕事大好き過ぎますから。まあ、私だからそんなあなたを受け入れているのですよ」
「そ、そうか。ありがとうマキナ」
「いえいえ。と、このように時には少しだけ強気になるも大切です」
「母上。私のアリスに余計なことを吹き込まないでください」
余計なことを言うのでそう言うと母上は微笑んで言った。
「あらあら。怒られましたね。まあ、でもエクスが本当にどうしようもなくなったらあなたの出番ですよアリスちゃん。知ってるとは思いますがエクスは裏で無理をすることが多々ありますので、時にはストッパー役になるのも妻の役目です」
「ストッパーですか、なるほど」
「あと、どうしてもエクスを引き止めたいならこの言葉が有効です。『私と仕事のどっちが大事なのですか?』と言ってみなさい。そうすればかなりの確率でエクスは止まります」
流石、母上。確かにアリスにそう言われたら何もかも放り出してしまうかもしれない。アリス以上に大事なものはないしね。そう思いながら俺は思わず父上に聞いていた。
「父上は言われたことありますか?」
「過去に二度ほど。体調不良の時にそれを言われて休んだものだ」
遠い目をする父上。しかしこの化け物にも体調不良という概念が存在するのか。なら、俺にもあるのかな?もしそうならお見舞いイベントを体験できるかもしれない。アリスが側にいるだけで体調は安定しそうだけども。アリス以上に万能な薬はないからね。
「そうそう。ロスト子爵家は知っての通り代々騎士団長を務める家系です。エクスもベクトルのスペックを受け継いでいるので実力的には騎士団長クラスです。だからアリスちゃんは騎士団長の妻になるのだけど、一つだけアドバイスね」
「アドバイスですか?」
「ええそう。エクスなら大丈夫でしょうけど、ロスト子爵家の男は代々強すぎる力から戦いを好むの。時には女を放り出してまでね。だからきちんと夫を家庭に繋ぐことを忘れないでね」
「・・・はい。頑張ります!」
何やら頼もしいアリスだけど、俺としてはアリスを放置してバトルに勤しむことはあり得ないので多分大丈夫だろう。必要なら戦うし、そのために強くなることは仕方ないが、そもそも俺とアリスのイチャイチャを脅かす存在への対処なだけなので、間違っても戦闘狂にはならないだろう。
「それから、私のことも是非お義母様と呼んでください。アリスちゃんにはそう呼ばれたいわ」
「はい。お義母様。色々御指南よろしくお願いします」
「ええ。もちろん。あと、アリスちゃんなら大丈夫だと思うけど、エクスのことをよろしくお願いしますね」
「はい。エクスのことは私にお任せください」
嬉しそうにそう言うアリスに思わず抱きつきそうになるがなんとか抑える。本当に可愛い。しかし思ったよりアリスに負担になってなさそうで良かった。父上はさっきから矛先が向かないように空気になってるし、この調子なら大丈夫だろう。それに楽しそうに母上と話すアリスを見てると本当に幸せになれる。やはりアリスには笑顔が一番似合うよ。だからこそこの笑顔を守りたい。そのためならなんでもしよう。
例え世界が敵でも戦える。いずれ作る予定の子供のためにもより良き世界に変えなくては。うん。色々頑張りつつアリスを愛でようと誓うのだった。




