38 騎士団長の息子は婚約者をお姫様抱っこする
日常回という名のバトル
しばらく市場を冷やかしつつ馴染みの顔を見かけたら話して、珍しいものを見つけては二人で笑っていると、ふと、アリスがある店の前で立ち止まった。所謂アクセサリーショップなのだが、普段アリスが目にするものとは品質にかなりの差があるもので、はっきり言うとガラクタ同然の代物なのだが、アリスはとある指輪を見ながら呟いた。
「綺麗・・・」
「気になるものでもあった?」
「あ・・・はい。エクス、あのこれ綺麗じゃないですか?」
「どれどれ」
アリスが指差したものを見ると、それは所謂天然石というのか、鉱石までいかないくらいの品質の石を加工して作った指輪のようで、確かに綺麗な色を出していた。俺は思わずそれを手にすると、アリスの指を触ってから大きさを確認して店員に言った。
「これを貰いたい。いくらだ?」
「え、エクス?私別に欲しいとは言ってないんですが・・・」
「そうなのか。ならこれは今日の記念にプレゼントさせてもらおう」
まあ、デートでアリスに贈り物をするのは嬉しいが、思ったより安いので少しだけ不安になるが・・・まあ、品質は良さそうだし、アリスも欲しそうにしているので問題ないだろう。プレゼントは値段より気持ちの問題だからね。アクセサリーショップのおじさんは指輪を買う俺を見て、ニヤリと笑っていた。まるでそう・・・『坊主、頑張りなよ』と言わんばかりの笑みだ。
そうして買った指輪をアリスに渡そうとしてから俺は少しだけ考えてからアリスの薬指に指輪をそっとはめた。
「え、エクス・・・これは・・・?」
「嫌なら外してくれても構わないけど、正式な結婚指輪までの代用品にと思ってね。ダメかな?」
「いえ、嬉しいですが・・・いいのですか?」
「むしろ、俺が聞きたいくらいだ。安物の指輪で嫌にならないかどうか」
「そんなこと!むしろ、エクスからの贈り物は嬉しいです。私大切にします」
そう言ってから嬉しそうに薬指にはめた指輪を眺めるアリス。可愛い反応に嬉しくなるが、こうなったら結婚式までにはなんとしても最高の一品を作ろうと決意するのだった。しばらく指輪を眺めてからアリスはハッとしてからこちらを見て言った。
「私も何かエクスにお返しがしたいのですが・・・」
「んー、ならお願いを聞いてもらいたいな」
「お願いですか?」
「うん」
下手にここで遠慮するのは相手にも失礼になるケースが多い。なのでこういう時の対応は相手に負担をかけずになおかつ幸せになれる選択肢を選ぶことが必要。すなわち。
「なら、今からお姫様抱っこをするから絶対に目を開けちゃダメだよ?」
「ふぇ?」
驚くアリスをあっさりと捕まえてお姫様抱っこをしてから俺は後ろから迫りくる剣を避ける。アリスはしばらくポカーンとしてから俺達が襲われていることを理解したのかこちらを心配そうに見て聞いてきた。
「エクス、これは・・・」
「大方、どっかの馬鹿が私怨でやらかしたことでしょう」
複数でこちらを囲む相手はおそらく素人ではない。とはいえ騎士と言うほど上品ではないので、おそらく金で雇われた賊だろう。
まったく、せっかくのデートで水をさしてくるとは。少しだけイラッとしつつも不安そうにこちらを見るアリスが視界に写ったので俺は優しく微笑んで言った。
「大丈夫。何があろうとアリスは俺が守るから」
「エクス・・・」
「だから、俺を信じて目を瞑ってて。俺に身体を預けて。絶対に守ってみせるから」
「はい」
その言葉に素直に応じるアリスに微笑んでから俺は視線を凍てつかせて賊を見て言った。
「失せろ。今なら見逃してやる」
「悪いがあんたをボコれと命令されてるんだよ」
「そうか、随分と優しい奴もいたものだ。俺が依頼主ならとことん痛めつけてからしっかりと絶望を植え付けてやるがな」
「へぇー、こりゃ驚いた。ただの貴族のボンボンと聞いていたが・・・中身は鬼畜でも入ってるのか?」
そうして話すうちに何度か仕掛けてくる相手に俺は表情を変えずに言った。
「やめとけ、命は大事にしないとな」
「お荷物を抱えて偉そうに言えるのか?」
「お荷物じゃないーーー」
そう斬りかかってきた相手の剣を俺は漫画みたいに口で受け止めるとそれを砕いてから吐き捨てて言った。
「俺の大切な人だ」
「おいおい・・・なんだよこれ」
砕かれた剣を見て顔色を変えた賊の男は無理を悟ったのか剣を放り投げて言った。
「ダメだなこりゃ・・・どうやっても勝てっこないな」
「か、頭!何を弱気なことを言ってるのですか!人数いるですよ、まとめて畳んじまえば・・・」
「やめとけ、返り討ちにされる。その嬢ちゃんを抱えながらでも俺達を瞬殺できるよこいつは」
「くそ!ならせめて女だけでも・・・!」
そう言って襲いかかってくる男の顔面に飛び蹴りを入れてから他のメンバーを見渡して言った。
「今から10数える間に降伏すれば命はとらないでやる。ただし・・・アリスに害をなすならこの場でこの世とはさよならになるがその覚悟のある奴は掛かってこい」




