32 騎士団長の息子は公爵子息(弟)に会う
番外編攻略序章
「すみません、兄はもう少しで来ますのでしばしお待ちを」
「いえ、それよりお兄さんが来るまで話相手をお願いできますか?ライト・シャルルさん」
目の前の兄とは正反対の固そうな弟くんにそう言う。本日俺は攻略対象の一人であるペター・シャルルに会いにきたという名目でこの屋敷を訪れたのだが、都合よく居合わせた彼と話せる好機を活かすために攻めることにする。乙女ゲーム『ラブリー☆プリンセス』のアナザーストーリーの一つである『ラブリー☆プリンセス ドキドキはトマラナイ!』の攻略対象の一人である彼、ライト・シャルルに面識を持てた好機を決して逃さない。
「構いませんが・・・あまり話は得意ではなくて」
「なんでも構いませんよ。例えば・・・婚約者の話とか」
「そういえば、ロストさんは殿下の婚約者だったミスティ公爵令嬢を婚約者にしたとか。凄いですね。私も早く婚約者が欲しいところです」
「現在はいらっしゃらないのですか?」
「恥ずかしながらこれまでは家は兄が継ぐと思っていたので、意識してなかったのですよ。ただあんな騒動が起きたので私が後継者に祭り上げられてしまって困惑してるくらいです」
ふむ・・・やはり、婚約者はなしか。そうなるとここからアリスが被害を被る可能性は・・・
「マリアという少女をご存知ですか?」
「マリア・・・確か、兄が落ちぶれた元凶ですよね。その方が何か?」
「いえ、聞いてみただけです」
ふむふむ、やはりヒロインとの接触はなし。そうなると、やはり悪役令嬢としてのアリスの出番は少なくとも彼に関しては心配なさそうだ。あとはヒロインに成り代わった存在がいないかどうかによるか。
「そういえば、ロストさんは剣術にも精通しているとか。是非とも御指南賜りたいものです。何しろ騎士団長の息子さんですしね」
「考えておきます」
前のエクスならきっと騎士団長の息子という単語に反発していたであろうが俺には特に反発する要素はないで流しておく。まあ、親が凄いと子供にはとんでもない期待がかかるからね。そうなっても不思議じゃないが、化け物並みのチートみたいな力があるとそういう風には感じないのが現実だ。
「ところで、シャルルさん」
「ライトで構いませんよ。ロストさん」
「では、ライトさん。いえ、ライトくんとお呼びしても構いませんか?」
「ええ、爵位的には上でも私は年下ですからそう呼ばれた方が嬉しいです」
「でしたらライトくん。私のこともエクスと呼んでください」
「わかりました。エクスさん」
そう言ってから微笑むライトはやはり攻略対象らしい魅力があるのだろうと思うのだった。
「これ美味しいですね」
そう言ってから俺が持参したクッキーを食べるライトに俺は微笑んで言った。
「お口にあってなによりです」
「エクスさんの家の料理人は凄いですね」
「いえ、それは私の手作りですよ」
「手作り?」
その言葉に驚いたような表情を浮かべてからライトは言った。
「凄いですね、エクスさんは。剣の腕があって、聡明で可愛い婚約者がいて、多芸でいらっしゃる」
「私なんてまだまだですよ。それこそどのジャンルでも格上がいることはわかってますから」
「格上・・・やっぱり騎士団長の息子というのは凄いプレッシャーなんですね」
「まあ、否定はしませんが誇りでもありますから」
どれだけ凄い人の子供でも結局そこから努力するかしないかは人によるだろうし、終着点が同じになることは決してないだろう。だからこそ、自分の限界を知り足りないものを補って高みを目指しつつ、大切なものを守れる強さを得る。
「やっぱりすごいです・・・私はこうして次期公爵家の当主にされてからプレッシャーで眠れない日が多いですから。兄はこんな中にいたんですね」
「そう気負わずに、と言っても無駄でしょうからそんなことは言いませんが、ライトくんに出来ることを一歩ずつ確実にすればいいですよ」
「私に出来ること・・・」
「ええ、周りの評価とかそういうのを一度切り離して己と向き合って確実に歩けばいつかはたどり着きますよ」
一歩一歩の積み重ねがやがては道になる。大切なのは歩み続けること。途中で挫けても泣いても構わない。それら全てを糧として自分の一歩に変えられればそれはきっと無駄ではないのだから。俺の言葉にしばらく黙ってからライトは俺に手を伸ばしてきて言った。
「エクスさん。あなたに出会えて良かったです。これからも時折でいいのでアドバイスをいただけませんか?」
「構いませんよ。私なんかでお役に立つなら」
「あなたのような人の言葉に救われる人はきっとたくさんいますよ。なにしろあなたはすでに少なくとも一人は救ってるのですから」
「だといいですが」
本当に救いたかったのはアリスだけ。打算まみれだろうと俺はアリスのために生きる。だからこれから先に人を助けることがあってもそれはアリスのためであり、間違ってもそいつのためではない。だから感謝を言われることはないのだが・・・まあ、貰えるものは貰っておこうと俺は彼の手を繋いで握手をしたのだった。




