13 騎士団長の息子はスカウトする
お誘い
「私が悪役令嬢のメイドに?」
「ああ」
「正気なのかしら」
クスリと笑うヒロイン。俺はそのヒロインを見ながら言った。
「お前は転生者だ。しかも乙女ゲームの知識もあり、魔法も使える。本来なら殺すのが手っ取り早いが、少なくとも協力関係は作れると思ってな」
「私が裏切って男を魅了してこの国を乗っ取るとは思わないの?もしくは悪役令嬢の父親なりを魅了して悪役令嬢を追放するかもしれない」
もちろんその可能性が全くないと言えば嘘になる。だが・・・
「アリスのメイドになることでお前は隠しキャラと接点を作れる。さらに周りの体裁的にはお前はアリスへの罪滅ぼしとして仕えることにすれば、不自然には思われない。最初の一つだけでもお前には魅力的に思えると思うが?」
「ふふ、そうね。確かにこのどん底から彼との接点を作れるところまで行ければかなりプラスね」
「ああ、一応言っておくと、アリスに何かあれば迷わずお前を斬るから」
そう言うとヒロインはしばらくポカーンとしてから笑って言った。
「本当に悪役令嬢が好きなのね。気に入ったわ。ま、私も悪役令嬢のあの子のことは結構好きだし、わかったわ。協力しましょう。でも、貴方の意見だけで私はここを出られるかしら?」
「大丈夫だ。というか俺の考えが間違ってなければ100%いけるだろう」
「どういうこと?」
「そうだな・・・じゃあ、聞くがわざわざお前の処遇のためになんで俺と王太子のリンスが来たと思う?」
そう聞くとヒロインはしばらく考えてから答えた。
「私の魔法について耐性のあるあなたと一緒なら影響を受けないかという実験かしら?」
「そんなことはおそらく自分の息子にさせないさ。それにお前のその魔法は他の貴族ですでに発現しているもの。わざわざ調べなくても記録ならあるだろう」
「確かに。となると、別の目的で彼は来させられたのかしら?」
「ま、そうだな」
何もかもあのタヌキ国王の手のひらなのは頭にくるが、仕方ない。
「おそらく、あの国王はお前を有効活用する方法を俺とリンスに調べさせるつもりだったんだろ。次期国王のリンスとその懐刀で次期騎士団長の俺にな」
「私の有効活用?」
「そうだ。まあ、お前の魅了魔法もだが、おそらく国王はお前の演技を見抜いていたのだろうな」
そう考えると婚約破棄の時の国王の態度にも納得はできる。最初から道化だとわかっている相手に息子が堕落する姿を見る。なるほど趣味が悪いがいかにもあのタヌキ国王が考えそうなことだ。
「つまり、私はどのみち利用されるのね」
「そうなるな。俺の誘いを断れば色仕掛けの要員として外交官にでもなるんじゃないか?そうなれば他国の王子とのコネはできるが、隠しキャラとは遠くなるな」
「つまり、私が一番望む結末に近づけるのはあなたしかいないと」
「そうなるな」
そう言うとヒロインはしばらく考えてからため息をついて言った。
「あーあ。せっかく乙女ゲームのヒロインなんてポジション手に入れたのにまさかこんなことになるなんてね」
「電波系になって断罪された方がマシだったか?」
「冗談。まあ確かにヒロインのぽわぽわさを演じていた腹黒だけど、電波にはなれないわ」
「どうせなら見てみたかったけどな。電波な反応」
からからと笑ってからヒロインは言った。
「それこそキャラじゃないから。それにしてもあんたも大概よね。転生したのっていつなの?」
「婚約破棄の真っ最中」
「マジで!うけるー!」
「そうか?お前はいつなんだよ」
「私は子供の頃だよー。だから精神年齢はかなりいってるけどね」
そう言ってからヒロインは地面に座り込んで言った。
「ねぇ、あんた怖くなかったの?いきなりの異世界転生に」
「怖いか。それは感じたことはなかったな」
「呑気ね。私は凄く怖かった。だってさっきまでいた世界と全く違う場所にいるんだもん。拉致と一緒だよ。ほんと、異世界転移とどっちがいいんだろうね」
「さてな。ただ、俺はアリスを救えるならどんな形でも良かったからな」
きっと誰に転生しようと俺はアリスを助けただろう。大好きなキャラだからではない。大好きな人だからだ。それは断言できる。アリスのためならなんでもするし、アリス以外は逆に興味は薄い。基本的にアリスありきの考えになってしまうのは仕方ないだろう。
「そっか、そこまで想われてるのって彼女も大変ね」
「重いことは自覚してるさ」
「そうなの?だったら自重したら」
「アリスの可愛さの前では意味ないからな」
「ノロケならお断りよ?」
そう言いつつポツリとヒロインは言った。
「羨ましいわ・・・あなたみたいに本音で生きられるのが。同じ腹黒なのになんでこうも違うのかしら」
「勝手に腹黒にカテゴリーするな」
「違うの?少なくとも悪役令嬢には隠してるんでしょ?」
「まあな。俺は重いからな」
「そういうのも背負ってくれそうよね。あの子。と、そういえば私はあの子のメイドになるんだったわね」
パンパンと埃を払ってから俺に手を出してくるヒロイン。
「この手は?」
「協力のための握手よ。あの子のメイドになってあげるわ」
「そうか。よろしくな。ただ、アリスに何かあったらマジで許さんからそれは覚えておいてくれ」
「怖い怖い」
クスリと笑いながら俺とヒロインは握手をするのだった。




