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捨てる人材

捨てる人材 -4-




平山は開発室の狭い通路を奥まで進んでいき、一番奥まった場所までたどり着いた。



(よし、ここから、順番に探していくか)



開発室の中はパテーションで十字状に区切られた一区画に4人ずつ座っており、そのグループがいくつも整列されていた。



平山はその区画と区画の狭い通路を、キョロキョロと目線を巡らせて歩き始めた。



勿論、大木 俊二 (おおきしゅんじ)を探す為だ。



しかし、中々に難しいと、早くも音を上げそうになる。




名札を掲げている訳でもなく、皆がPCの画面を見つめているせいで、横顔か後ろ姿しか確認できない。



また、資料を確認して見ても、写真の大木はこれといった特徴のない少し白髪交じりな初老の男性だ。


大木に似た風貌の人間が開発室には多く居て、平山からは区別がまるでつかなかった。



(これは、それらしい人全員をしらみつぶしに聞いて回る方が早いかなぁ)





平山がそう気を重たくしていた矢先に、平山は大木らしき人物を見つけ出した。





その人物が、大木ではないかと思えたのは、彼が姿勢を正して、真っ暗なPCの画面を見つめていたからだ。




この場では、皆が忙しそうに仕事をしている中で、その様は異質に映った。




(この人が、大木 俊二 (おおきしゅんじ)……)




平山は手元の資料と、大木とで視線を三度、往復させた。




(恐らく間違いない……と思う)




平山は、自身がひどく緊張していることに気が付いた。



――超法規的措置




(先ほど調べたことが真実なら、俺はこれから大木に死刑宣告を告げることになる……)




平山が話しかけることを躊躇っていると、大木の方から声が掛かった。




「もしかして、人事部の方ですか?」




大木が平山の方を振り向くことなく、尋ねる。





「そ、そうです。人事の平山と言います。あの、今日は――」





平山が言い終えない内に、大木はゆったりとその場で立ち上がった。


――その背中から言いようのない陰りを、平山は確かに感じ取っていた。




「いえ、分かっていますよ。私の人事の件であることは百も承知ですとも」




大木は、未だこちらを振り向かぬまま、抑揚のない声で話した。




大木のデスクは、整然としており、PCとその周辺機器以外には物らしいものが置いていなかった。



――それは、まるで死ぬ間際の人間が、身の回りを綺麗にしていくようなものではないか、と平山には思えてならなかった。




「行きましょうか。……いやーほんとにこの会社に入ることが出来て良かったですよ……私は」




大木が平山の方を振り返り、そこで、初めて平山は大木の顔を見ることになった。





――そして、平山は大木の表情を見るや、背筋を凍らせた。










――大木 俊二はとても安らかな表情で微笑んでいた。













捨てる人材 -4- -終-

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