飛べない蝶
醜い少女のお話です。
幼い頃から、聞かされてきた。
私は、醜いのだと。
なんてことはない。ただ、顔が醜いだけのこと。
包帯の、隙間から、見える醜さは、きっと偽物なのだ。
表面上の醜さからは見えない、内面の美しさがあるはずだ。
私は、心は美しいはずだ。
色々な人から、蔑まれ、馬鹿にされているので、人一倍そういう事に敏感なのだ。
だから、傷ついた人を助けることができる。
たとえ、醜いとしても。
ある日、彼を見つけた。
運命の相手とも言える、あの彼だ。
容姿はもちろん、中身も美しい、完璧な彼。
彼は、醜い私にも優しくしてくれる。
ねぇ、お願い、私に気づいて...。
彼は、私に話し掛けてくれた。
私の言うことに、笑ってくれ、共感してくれ、嬉しがってくれた。
微笑みを絶やさずに、彼は私に優しく話し掛けてくれる...!
胸が、焼けるような鼓動を伴い、とても痛かった。
それとは対象的に、頬は緩んでくる。
これが、恋というものなのだろうか。
数日後、駅ですれ違い様彼に会った。
彼は、何かについて話していた。
「あいつ、まじ醜くて...」
すぐに分かった。
私のことなのだと。
失恋が、すぐに怒りと妬みの炎で燃え上がった。
思い知れ...私の怒り...!!
駅のフォームの近くにいた彼を、トン、と押した。
彼はそのまま、電車に打たれ、飛んで行った。
その時、体は電撃を食らったかのように震えた。
ーこんなに、呆気なく...
私は微笑みを浮かべて立っていた。
近くに羽根がもげられた蝶が地面をバタバタしている。
飛べない、蝶...。
私だって、飛べない蝶。
もう、表面上の醜さは、心にもついてしまった。
すべてが手遅れ。
飛べない蝶のように、私は全てが醜い。