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青みかん  作者: リュウ
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チョコレートは甘い罠

 おとんは毎年バレンタインデーにはチョコレートを俺にくれた。しかも、毎年違う種類のチョコレートを買っていて、どれも無駄にお洒落なデザインだった。

 俺は、そんな女みたいなことをしているおとんが気色悪かったこともあり、それを受け取らなかった。それでも、おとんは懲りずに毎年チョコレートを用意していた。

「今年はチョコレートどご手作りしたべ。好ぎなだけ()!」

そして今年は、おとんが「これでも断るか」と言わんばかりに、チョコレート菓子を大量に作ってきた。

「いらん!ていうか、何でこんな大量に作ったんや⁉」

俺は、チョコレートの量に驚いて聞いてしまった。

「職場で配ろう思って作ったら、大量にできたんだ」

とのこと。一体、おとんの職場の人達はどんな気分で受け取ったのだろう。

 そんな生々しいものは受け取りたくなかった。さらに女みたいになっているおとんに吐き気がした俺は、意地でもそれを食べなかった。

 するとおかんが、

「せっかくあんたのために作ってくれたのよ。ちゃんと食べなさい」

と言ってきた。

「嫌や」

と頑なな俺に対し、

「じゃあ、アタシが食べちゃうわよ!」

と言うおかん。

「別にええし!」

普通に考えたら一人では食べきれないであろう量なのに、おかんは美味しそうに食べ始めた。

「美味しい。本当にいらないの?アタシ、全部食べられるわよ」

そう言われて、食べてみたいと思ったが、食べたら負けな気がした。

「いらんもん。完食できるもんならしてみろよ!」

ムキになってそう言う俺を尻目に、おかんは本当に完食してしまった。

 そういえばおかんは、神奈川県出身だが三重県に来た理由について、「三重県だと美味しいものがいっぱい食べられるだろうから」と言っていた事があった。

 おとんは、美味しそうに食べるおかんが可愛いという印象もあって、好意を持ったらしい。


 俺がバレンタインデーのチョコレートを受け取らない理由は、他にもある。

 1年前のバレンタインデーに、学校にある自分の引き出しに、見るからに手作りのチョコレートが入っていたことがあった。俺は、その送り主が誰かわからなかったが、喜んで持ち帰った。

 その日は帰宅しても家は留守だったので、両親に何だかんだ言われる前にそのチョコレートを食べたのだった。

 翌朝学校で、ほとんど話したこともなかった同級生の女子が、「うちのチョコ、受け取ってくれたんや」と言って、付きまとってきたことがあった。

「あれ、あんたからやったんや。ありがとう」

俺は、そうお礼を言ったが、実はそのチョコレートは、大して美味しくなかった。

「ってことは、うちと付き合ってくれるってことやよね‼」

その女は、そんなわけのわからないことを言い出した。

「はい⁉何であんたのこともよう知らんのに、付き合わなあかんのや」

俺は動揺してそう言った。

「何、チョコレートを受けっとっておいて、何もないとかありえやんやろ⁉」

何を言っているんだこの女は。

「だって俺、あんたからって知らんだし、そもそもあんたの名前も知らん」

「ひどい、1年生の時に同じクラスやったのに!」

俺はこの時4年生だった。3年前のクラスの話をされても困る。それに、そう言われても全く思い出せないほど、この女の印象はなかった。

「チョコレートだけ受け取って他のもんは受け取らんなんて最低!もうええ、うち、そんな男とは付き合わへん」

その女はそう言って、怒りだしてしまった。何で一方的に話して来たのに俺がふられたみたいになっているんだよ。理不尽すぎるだろ、バレンタインデーって。

 そのことに懲りた俺は、バレンタインデーのチョコレートは全く受け取らないことにした。勝手に彼女面されたり、逆恨みを買うのはもう御免だ。

 それに、どんなにラッピングが可愛くても、手作り品には当たり外れがある。美味しくないものを食べさせておいて、あんなことを言われるなんて。バレンタインデーのチョコレートは理不尽という名の落とし穴へ導く罠でしかない。俺は、子供ながらにそう学習したのだった。

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