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青みかん  作者: リュウ
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授業参観

 来週は授業参観がある。1年生の俺にとっては初めての授業参観だが、嫌な予感しかしないので、家族に伝えることに抵抗があった。でも、伝えないと怒られるよな…。


 「授業参観か、楽しみだな」

両親に授業参観の連絡をしたら、おとんが喜んでいた。

「あたし、その日は勤務だから、お父さんに行ってきてもらうわ」

おかんは総合病院に勤めているから、土日でも勤務のことも多い。俺は、おかんが来ないことに少しほっとしてしまった。

 でも、俺にとってはおとんもおかんも鬱陶しいから、どちらが学校に来るのも嫌なのだ。学校の様子を見てほしいなんて思ったことがないし、授業参観なんてなければいいのにと思う。

 それに、自分の親を同級生やその親に見られるのも恥ずかしいから嫌だった。俺自身、自分の親と他の家の親を見比べてしまうだろうし…。


 そして、授業参観の日がやってきた。俺は、既に逃げ出したい気持ちでいる。変な話、体調が悪くなって、保健室に行けないものかと考えている。

「晴男、来たべ」

おとんは、どの家の親よりも早く教室にやってきた。おとんのアホ。わざわざ俺に声を掛けてくれるな。これだけでも既に気分が悪いのに、教室がざわついた。

「あの人、晴男君のお父さんなんや」

「ええなー、めっちゃかっこええやん」

クラスメートが、ひそひそとそう言っていたのだ。

そう、俺のおとんは目立つのだ。体は大きいし、顔立ちも服装も派手だから。そもそも、授業参観に父親が一人で来るという時点で目立ってしまうのだ。

 いや、他の家の親が来たら、俺のおとんも紛れていくよな。そう思っていたのに、おとんは他の家のお母さん達にやたら声を掛けられていた。

「母ちゃん、その人は晴男の父ちゃんや。晴男が恥ずかしがっとるからやめたって」

俺の様子に気づいた博哉が、自分のお母さんにそう言っていた。

「あらごめんね。かっこよかったからつい」

博哉のお母さんは、笑いながらそう言っていた。おとんもおとんで、

「あばやー、上手いこと言いますね」

とへらへらしていた。

「晴男、授業参観で恥ずかしい思いをしとるんはお前だけやないんや」

博哉がそう言い、俺もうんうんと頷いた。まだ授業自体は始まっていないのに、既に疲れてしまった。

 そうだ、授業中は親は後ろで黙って立っているだけだ。見られていると意識せずに済むよな。見られていると思わなければいいのだ。

 自分たちの後ろにキャベツがあると思えばいいと言われているではないか。俺の後ろにいるのは、おとんではなくなまはげだ!

 しかし、授業参観の教科は、よりによって国語だった。算数とかなら手を挙げなければ目立たずに済むのに、国語なら黙っていても教科書を朗読させられる可能性がある。

 いや、朗読と言っても、全員がするわけではないよな。指名されるのは、一部の運の悪いクラスメートだけだ。そう思っていたのに、

「じゃあ、出席番号が最初の朝倉君から」

と言われた。

 そうだ、朗読って、出席番号順で指名されることがあるのだった。俺の名字は朝倉で、このクラスの最初だったのだった。そういう意味で、俺の運は最悪だ。

 きっと、俺の後ろにいるなまはげは、既に大喜びでカメラのシャッターを押しているのだろうな。いや、そんなことを考えたら負けだ。俺は、いつも通りに教科書を読めばいいだけだ。そう思いながら、慎重に教科書を読んだ。

 しかし、思うように上手く読めず、何度か読み間違えてしまった。しかも、一人一段落読むことになっていた。最初の段落が長いせいで、なかなか交代させてもらえなかった。

 長い永い朗読を終えた俺は、抜け殻のようになった。でも、もうこれで俺の仕事は終わったよな?と、安心もした。

 全体の教科書の朗読が終わると、意見発表という挙手大会が始まった。俺は、普段の授業では積極的に手を挙げるのだが、今は朗読で疲れたのと、目立ちたくないのとで、ずっと膝の上に手を置いた。

 なまはげは、俺の発表を楽しみにしてカメラを構えているのだろう。でも、それに応じたくない。それに、心配しなくても、みんな親の前でいいところを見せようと、張り切って手を挙げるのだ。俺が手を挙げていないことなんて、目立たないだろう。

 しかし、授業が進んできてから、担任が

「あれ、発表しとる人が偏ってへん?次は、まだ発表してへん人に言ってもらおう」

と言い出してきた。

「せっかくの授業参観やから、発表したいやろ?じゃあ、いつもええ答えを出しとる朝倉君」

担任に悪意がないことは、子供ながらに理解できた。しかし、だからこそ、勘弁してほしい。

 俺が立って自分の意見を話した瞬間、シャッターの音が聞こえた。


 「晴男、今日は元気なかったな」

「まあ、しゃあないやろ」

貴雄と博哉と一緒に下校した時に、二人にそう言われた。

「しょっぱなからあれやったでな。確かに晴男の父ちゃん、かっこよかったけど」

博哉がそう言いだし、貴雄も

「何か、存在感があったよな。俳優みたいやと思った」

と同調していた。

「おとんの話はええねん」

俺は、おとんの話をされるだけで気分が悪くなった。

「ごめんごめん。そんな顔、お前らしないで」

貴雄がそう言った。

「授業参観って、小学校の間は毎年あるんやよな?考えるだけでも憂鬱になる」

そう言っている俺は、家に帰ることも憂鬱になっている。

「でも、来年からは親が集まるんが初めてやなくなるやろから、今回みたいにはならへんやろ?」

博哉がそう言ったことで、俺は少しほっとした。

「今から来年のことなんて考える必要はあらへん。あと1年間は、授業中に親はこーへんのやからさ」

貴雄にそう言われ、ぽんと肩を叩かれた。

「せやな」

俺は、そう言って笑顔になった。

「やっと晴男が笑った」

そんな俺を見て、二人もほっとしていた。

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