紫のランプ
感謝しなければ町は暗闇に沈んであちこちに明かりがつき始めていた。
感謝何に?
もちろんすべてに・・・・
いつもはさびれてひっそりと感じられる街並みも美しく見える。
取りあえず問題は去った。
ごくありきたりだが深刻な問題、借金はすべて終わった。
これからは生活は改善されるだろう
彼女に何か買ってやってやってもいい
結婚生活も軌道に乗るだろう
もとどおりに・・・・・
その店に気づいたのはその時だった。
小さな紫色のランプがいくつかついた店を見つけた
それから店の階段を上がっていく女いる、髪が長く化粧が濃い
くっきりとした顔立ち
だが、なぜか惹かれた、そして浮かれた気分だった。
そんな店に一人で入ったことはなかったが今日くらいはいいだろう
今日ぐらい楽観主義にひったってもいいと思った。
ドアをあけると薄暗かった。
何人かわからないが人影と女の声がした。
さっきの女がきて「こちらへ」と案内された。
店は思ったより豪華であちこちに絵がかかっている。
どれも女の肖像画だった。
メニューの値段は高くない
なんだかちぐはぐな印象を受けた。
悲し気に目を伏せている。
ニ番目の女がボトルと氷を運んできた来た時
違和感の原因が分かった。
肖像画の中の一枚にそっくりだった
「これはどういう趣向なの?」思わず聞いた
女が絵とは違う明るい顔でコロコロ笑った。
「絵が趣味のお客がいるの」
「なんで悲しそうなの?」
「さあ、芸術家の考えることはよくわからないわ」
心なしか疲れた顔で言ったが次々と人が表れた。
みんなそこそこに奇麗だった
そして騒々しくさわぎだした。
なんだか夢に誘われるようにしびれてきた頭で考えた
みんな絵の中の女たちだった
絵の中では悲し気に目を伏せ焦点の泡ない目で遠くを見ているが彼女たちは
どんどんにぎやかになっていく
何をしゃべっているかわからないほどに・・・
その時、なにか小さな音がかすかな震えるような音がした
切実な声に引っ張られるようにトイレに行くと言って席を立った
女たちは誰一人こっちを見ない
けものの咆哮のような声でもうはなしているというより叫んでいると
いたほうがいい
それにしてもこの店はどこまで続いているのか
暗い廊下、紫の小さなランプそれから壁の絵
みんな目を伏せているか
つぶっているものもある
そのなかでまっすぐこっちを見ているものがあった。
ほかの絵と違って生者のエネルギーを発散しているように見える
見覚えのある顔のよこからぱさぱさの長い髪が生えてきた
髪はどんどん長くなる、見覚えのある髪
吸い寄せられるように近づく
「あなた」唇が動く
「ここに来てはだめ
ぎりぎりまで抑制された声がする。
後ろからはまだ女たちの嬌声が聞こえる
もうそれはことばではなく何かの悲鳴か咆哮のような騒々しさになっている。
冷たくぐんにゃりとした手が自分の手をつかむ
それから思ったより強い力で自分の手を引っ張る。
魚がくさったようなにおいがするが気にならない
気が付いたら自宅の前にいた
さっきの女がいる思い出した
これは自分の妻じゃないか?
暗がりでよく見えないが懐かしく優しい声が言う
「もう、戻らないと、私もうすぐあそこで働くの」
「どこに借金は片付いた、君はもう働かなくていい、苦労をかけてすまなかった」
ありきたりな言葉だが相手は
「ありがとう」と言った。
苦し気なひゅうひゅういう息遣いがした
「でもだめなのよ、あそこもそんなにわるいところじゃ・・・・ない」
その時に彼女の首がやけに長いのに気付いた。
なにかがぽたぽたしたたるような音がして、そして腐臭が濃くなった。
それからひゅうひゅういう呼吸音ともに「来てはだめよ」言いながらその姿が消えた
警察が来たのは次の日だった
妻が首を吊ったと言った
しばらくの間呆然とした後放心状態になった
以前の新聞を調べた
図書館とネットで、それらはすぐに見つかった。
あの嬌声を上げていた女たちはみんな自殺していた
飛び込みや飛び降り様々な方法で熱したオーブン頭を突っ込んだりしたものもいた。
どれも楽な死に方とはおもえない
それでも救いはあったのだろうか?
その後「来てはだめよ」と言われたがあの紫のランプを探さずにはいられない
でもどこにも見つからないことはわかっている。
そこに行く方法が間違っているからだ