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4話

 目を開けると、和哉は夕方の教室にいた。

「これは中学校の教室か?」

 そう呟いてみたが、和哉の記憶と少し違う部分があった。教室の外には堤防と川があるはずだが、窓の外はオレンジの光以外見えなかった。

 教室を見回すと、後ろの席で俯いて泣いている女の人が目に入った。この姿を自分は知っている、と和哉は思った。

「どこへ行ったの・・・・・・?」

 それが真琴であることに和哉は気づいた。机の上には見覚えのあるCDが置いてある。確かこれは真琴の15歳の誕生日にあげたものだったよな、と和哉は思い出した。当時流行っていた音楽で、今思えば我ながらセンスがないな、と笑いそうになる。和哉は、真琴から少し離れた席に腰を下ろした。真琴がこちらに気づいている様子が無かったので、和哉は咳払いして注意を引こうとした。

「真琴?」

 反応が無いので声をかけるが返事は無かった。どうやら和哉のことが見えていないらしく、どれだけ声をかけても、試しに歌ってみても反応は一切無かった。落ち着いて真琴を眺めていると、ふと、最後に話したのはいつだろうな、と思った。高校も同じだったので、なんだかんだ交流はあったが、受験が終わった頃から話をしなくなったと記憶している。

「真琴が気を使ってくれたんだっけ?それとも俺が避けてたんだっけ?」

 そんなこと考えたことも無かったな、と口に出しながら和哉は思った。考えないようにしていたのかな、という考えが一瞬頭をよぎったが振り払う。多分これは夢なのだろう、と和哉は思う。理由は分からなかったが、どうせなら謝りたかったな、とだけ思った。

 相変わらず真琴は泣き続けていた。





 結局あれから2週間が過ぎた。

「結晶ができる部位や、相性によって出来ることが変わってくるんだ。私たちはこれを結晶能力と言っているよ」

 今日は龍一の狩りについてきている。霧の晴れたすぐの間を狙って二人は外へ出ていた。拠点であるビルから少し離れた場所にある、まるで闘技場のような場所に来ていた。地面の窪んだところには水が溜まっている。和哉が水たまりを覗き込むと、だいぶ髪が白くなってきた自分の姿が映った。だいぶ霧に蝕まれてきたようで、身体能力がかなり上がってきたのを実感している。

「この水はやっぱり霧の水ですか?」

「これは霧じゃないな。たまに雨が降るんだよ。年に数回、街が水没するほどの雨が降ることもあるよ」

 水没ですか、と返しながら和哉は後に続く。

「話を戻すよ。例えば、頭に結晶が出来れば、所謂天才に、目に出来れば異常なまでの視力。腕なら腕力、心臓なら運動能力全般が、といった具合にね」

「結晶が出来た体の部位が強化されるってことですね」

「ただそれだけじゃないんだ。結晶のエネルギーを放出したり、エネルギーを物質化したりとか。これは出来る人が少ないんだけどね」

 龍一はそう言って、手をかざした。

「私の場合は、右手の甲に結晶を移植した。もちろん身体能力全体が底上げされる。エネルギーの保有量が上がるからね」

 手の甲が青白い光を発し、渦を巻き始めた。

「君を助けたのもこれだよ」

 光は一度収束し、腕から放たれた。光は建物の壁を吹き飛ばし、壁は音を立てて崩れた。光の当たった部分が赤い光を発し、熱を帯びていることがわかる。

「意外と破壊力があるんですね」

 思わずそう呟く和哉に、龍一は答える。

「今回は結構強めに撃ったからね。それよりも今ので結構大きい音がしたから、下手したら灰人がよってくるかもしれないから、そろそろ帰ろうか」

「わかりました」

 今日の収穫は大型犬ほどあるバッタのような生き物が一匹。最初こそ触ることすら嫌だったが、今では解体の手伝いが出来るようになっていた。一度口に入れてみたが、すぐに吐き気がしたので、和哉はしばらくは食べることはないな、と思っている。

 ふと龍一が足を止め、物陰に隠れるように手で指示する。

「昔と比べて威力があがったんじゃないか?」

 どこからか声が聞こえ、それと同時に龍一は、その方向へ向かって撃った。轟音とともに闘技場の一部が吹き飛ぶ。土煙が立ち込める中、巨大な影が中で蠢いている。巨大なヘビか虫か、何か太く長い生き物のようだ、と和哉は思った。

 煙が突如破られ、巨大なムカデが飛び出してくる。目測で6mはあるだろうか、白い巨体は見た目にふさわしくないスピードで動き回る。巨体があたりの地面を抉っているのを見た和哉は、勝ち目がないと悟り、あらかじめ決めていた通りに、全力で逃げることにした。物陰から飛び出した和哉の目は、ムカデに守られるように佇む男の姿を確認した。高い背に広い肩幅、頭はスキンヘッドという出で立ちで、見るからに強そうだ。壁が崩れた場所から外へ出られそうだ、と思っていると、首筋にするどい何かが突きつけられた。

「動かない方がいいよ。別に人質を取ろうなんて思ってないけど」

 少しくぐもった声が聞こえ、和哉がそちらにゆっくりと向き直ると、ガスマスクをした、黒い男がいた。襲撃があるなんて聞いてないぞ、と和哉は龍一を呪った。しかも複数なんて勝ち目がないぞ、と思う。

「なんで髪も黒いのか、って思ってる?」

 ガスマスクは楽しそうに言った。その男の言った通り、その男は髪が黒く、霧に蝕まれている様子が無かった。手に持っている剣のようなものも、鉄でできているし、もしかしたら、と和哉は思う。もし、この男が霧の影響を受けていないなら、今の自分の方が身体能力が上かもしれず、うまくいけばこの場をくぐり抜けられるかもしれない。

「別にやってもいいんじゃない?でもそんなことしなくても、あのおじいさんなら大丈夫じゃない?」

 ガスマスクは笑った。和哉が慌てて振り返ると、襲撃者を今にも追い詰めんとする龍一の姿があった。巨大なムカデの突進を最小限の動きで翻し、男の元へと迫る。

「てめぇ動くなよ!殺すぞ!」

 スキンヘッドが血走った目で叫んでいる。龍一は光でムカデの目を眩ませ、その隙にスキンヘッドの脚を撃ち抜いた。背後からムカデが襲いかかるが、龍一はそれを避け、流れるようにスキンヘッドを組み伏せた。

「ちょっとじっとしててね。仲間は助けなきゃいけないらしいからね」

 そう言ってガスマスクは和哉の足を刺した。思わず口から声が漏れ、龍一の動揺した気配が伝わってきた。これじゃ助けにも行けない、それ以前に逃げることすら、と和哉は思う。痛みに耐えていると、目の前に光る右腕が落ちてきた。顔をあげると、膝をついた龍一と、布で剣についた血を拭き取っているガスマスクの姿があった。

「このじじいは俺が殺す」

 組み敷かれていた、ガラの悪い大柄の男がそう言って立ち上がった。ムカデが再び頭を擡げている。

「おじいさん、あの子は僕達がもらうよ。暴れてみるかい?昔みたいに」

 ガスマスクがそう言うと、龍一の表情が変わった。

「君の恋人が殺されたとき、君はどう思った?」

 そう言ってそのまま龍一の首をはねた。その瞬間ムカデがガスマスクに飛びかかる。ガスマスクは軽くそれをいなし、スキンヘッドの怪我した足を剣で刺した。スキンヘッドは崩れ落ちるが、ガスマスクを睨みつけた。

「てめぇ、俺が殺すって言ったの聞こえなかったのか?」

「君は自分が死ぬ状況だってわかった方がいいよ」

 刺さったままの剣をグリグリと動かしてガスマスクは静かに言った。スキンヘッドは叫び声とともに悪態を吐き出した。

「さて、君を僕らの本部に案内しようか。僕たちは君を歓迎する。嫌だと言っても連れて行くけどね」


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