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12話

 ポツリと降り出した雨は、瞬く間に豪雨へと変わった。試しに屋上へ上がると、少しずつ水に沈んでいく街が見えた。霧は晴れているが、雨のせいで視界は悪く、遠くは見えない。気温も先ほどより下がってきているようで、濡れたままだと風邪をひくかな、と和哉は思った。虫や、灰人達が、慌てたように木に登ったり、建物の中へ入っていくのをぼんやりと眺めた。

 寒いし正直中へ戻りたいが、なんとなく気まずい、と和哉は感じた。最近気まずいことばかりだな、と和哉は少し笑う。その時、屋上へ続くドアが、控えめにノックされた。振り返ると、ヒカルが気まずそうに頭を掻きながらドアから顔を出している。

「えっとさ、さっきは悪かったけどさ。寒いし戻ってこいよ」

 目を合わせないまま、ヒカルはそう言った。わかった、と告げて、和哉は屋上を後にした。階段を降りていくヒカルを見ながら、和哉は、思っていたよりヒカルが小さかったことに気がついた。

「濡れたままだと体調崩すぞ」

 ヒカルが布を放ってよこした。身体能力が強化されても風邪はひくんだな、とどうでもいいことを和哉は思ったが、とりあえずありがとう、と布を受け取った。

 和哉が濡れた服を着替え、体を拭いている間、ヒカルは下の階を見てくると言って、部屋を出ていた。会話がないな、と和哉は思う。ストーブの上のヤカンの水がなくなっていたので、下へ降りて水を入れてきた。ヒカルはさらに下の階を見に行っているようで、姿は無かった。

 ベッドに腰を下ろして一息ついた時、下から爆発音が聞こえ、ヒカルの能力だ、と和哉は気づいて飛び起き、階段を駆け下りた。3階の階段を駆け上がってくるヒカルと鉢合わせ、すでに2階まで沈没していることを告げられた。

「灰人が入ってきてる。3体だ」

 ヒカルはそう言って和哉の手を掴んで上へと登り、階段を爆破する。

「これも時間稼ぎにしかならねーぞ。下手したら天井突き破ってくるからな」

 この雨の中では外に逃げることも出来ないし、全部倒すしかない、と判断し、二人は4階に陣取った。5、6階は居住スペースなので、ここでやりあうしかなかったのだ。ヒカルは4階のフロアに、和哉は崩れた階段へ移動する。

 ポカリと穴の空いた階段には、灰人が1体階下で待ち構えていた。胸のあたりで結晶が光っているのを確認し、これはやばいかもしれないと、和哉は冷や汗をかいた。結晶持ちは基本的に身体能力が高いことを思い出し、一旦距離を話すと、先ほどまで和哉がいた床が爆発し、白い巨体が現れた。心臓部が結晶で覆われていて、狙えるのは頭部くらいしか無さそうだったが、身の丈が2m以上はあり、それは難しそうだ。

 右腕から結晶の剣を出し、低く構えた。フロアから爆発音が数回聞こえ、建物が揺れる。それが合図だったかのように、巨体が跳ねた。少しバランスを崩した和哉は反応が遅れ、剣でとっさにガードしたが、弾き飛ばされた。呼吸ができなくなり、一瞬意識が飛びそうになる。それを無理やり堪えたが、突進してくる灰人には反応が追いつかない、と思った。

 灰人の頭部に結晶が着弾し、炸裂する。フロアから、ヒカルが慌てて飛び出してきた。

「走れ!上に登れ!」

 その言葉を聞いて和哉は、足に力をいれ、ヒカルの背後に迫る別の灰人に肉薄した。何故か灰人の動きが手に取るように分かったことや、躊躇なくそんな行動に出た自分に疑問が浮かんだが、すぐにそれを頭から追い出す。灰人とぶつかったことで、骨が軋んだ。さっきより小さいやつで助かった、と思いながら、突き刺した剣を爆発させた。突き刺した胸部から、頭部にかけて破裂して、確実に倒したと和哉は思う。ヒカルは先に階段を登りきったようで、爆発の勢いを使って後ろへと下り、ヒカルを追って階段を登った。

「頭下げろ!」

 上からの声に、考えるよりも先に体が動く。頭上を結晶が通過し、背後で爆発を起こした。ちらりと後ろを見ると、先ほどの胸部の結晶持ちと、腕に結晶のある灰人が迫っていた。

「階段を落とせ!」

 和哉はそう叫んで、跳び、壁に剣を突き刺して体を固定した。それとほぼ同時に階段が吹き飛んで、2体の灰人は階下へと消えた。2階まで階段を落としたから、そこまで落ちてると思う、とヒカルが言った。和哉は壁を使って5階まで登る。

 雨のせいか湿度が高く、煙もあまりたっていない。下を見下ろすと、腕をこちらへ向ける灰人の姿があった。

「あいつらも撃てんのかよ!」

 和哉はヒカルの体を抱えて、部屋へと転がり込んだ。床が吹き飛ぶのを見て、かなりの威力があることを悟る。やつはどうやら、ヒカルとは違い、龍一と同じように、エネルギーを飛ばしてくるようだ。空いた穴から下をみると、腕の方は下に陣取り、胸の方が登ってきているのが見えた。これなら倒せる、となぜか和哉には道筋が見えたような気がした。

「あっちの撃ってきてる方を頼む。目くらましでもなんでもいい」

 和哉はそう言ってなんの躊躇いもなく、空中に躍り出た。背後でヒカルが慌てた気配を感じて、少し笑いそうになる。剣にありったけのエネルギーをこめ、硬度をあげる。背後からのヒカルの援護射撃で、腕の灰人のあたりが爆発する。落下エネルギーと、下から飛び上がってくる灰人のエネルギーが相まって、胸の結晶を貫いた。衝撃で、腕の骨が折れるのを和哉は感じたが、構わずさらに出力をあげた。剣は巨大化し、その下にいた腕の灰人もろとも貫いた。駄目押しに剣を爆発させ、内側から2体を破壊した。その衝撃で壁が崩れ、和哉を瓦礫が飲み込んだ。

「かずや!」

 ヒカルが叫んで、壁を器用に伝って降りてきた。和哉の体は、瓦礫の下に埋まり、上がってくる水で溺れるのは時間の問題だった。ヒカルは慌てて瓦礫を避け始めたが、間に合わないと気づいた。吹き飛ばすと、下に和哉がいる以上怪我をするかもしれない、とヒカルは躊躇する。仕方なく威力を弱めて瓦礫を吹き飛ばし始めた。もう五分もすれば、和哉は水に沈むだろうとヒカルは急ぐ。

 ある程度瓦礫を取り除いたが、灰人の体が邪魔で、さらに時間がかかりそうだった。最悪の状況を想像して、ヒカルは焦った。

「なんであいつのためにこんなに焦ってんだよ」

 愚痴りながら、灰人の体を引っ張った。水位が上がり、おそらく和哉は呼吸できていないだろう、と簡単に想像がつく。もうしばらくすれば、ヒカル自身も危なくなるため、その前にどうにかしなければならない。

 灰人をどけようと力をいれると、足元の瓦礫が崩れ、ヒカルも水に飲まれてしまった。急なことに慌て、水が気管に入りむせてしまう。足が瓦礫に挟まってしまったようで、ヒカルは必死にもがいた。焦る心を抑えて、足元の瓦礫に手を伸ばすと、誰かの手に触れた。手の大きさから、和哉であることがヒカルにはわかった。思わず瓦礫を取り除くのも忘れてその手を力一杯握りしめた。

 





 和哉が目を開けるとまたあの教室だった。ここに来るのは何度目だろう、と和哉が思っていると、後ろから誰かに抱きつかれた。よろつきながらも、その相手を見て、それが真琴であることを確認した。泣き腫らしていたのか、目が赤かったが、それよりも和哉は真琴に触れることに驚いていた。始めのうちはすり抜けていたはずだったのに、と思う。

「和哉、どこいってたの?」

 真琴の見た目は最後に実際に見た時とほぼ同じだった。つまり、俺がいなくなってからそんなに時間が経ってないのか、と和哉は察した。ふと、前回のことを思い出し、抱きついている真琴の体を離した。今回にでも話して置かなければ、過去の自分が情報を得られなくなってしまうからだ。

「ごめん、これから言うことを次にこの夢を見た時に、俺に話して欲しい」

 そう言い終わらないうちに、和哉はビンタされた。

「勝手に心配かけて勝手に消えて、久しぶりに会えたと思ったら、何?」

 あ、怒ってる、と和哉は長年の勘から分かった。時間がいつまでもつか分からないのに、と和哉は焦る。どうしようか和哉が必死に考えていると、真琴が笑った。

「変わんないね。焦ったりしたときのその感じ。焦ってる、ってすぐに分かるよ。いいよ。今回は特別に話を聞いてあげる」

 そんなにわかりやすいだろうか、と和哉は思ったが、とりあえず真琴に感謝した。夢だと思ってるかもしれないけど、と和哉は話し始めた。

「電車に轢かれた瞬間、別のとこに飛ばされてた。今俺はそこにいる。そこで大変な目にあってる」

 和哉は前回聞いた話を、端折りながらも話して聞かせた。話しながら、いやに頭が冴えているな、と和哉は思った。こんなに自分は他人に物事を教えられるような力があっただろうか、と考えた。

 話し終わると、真琴は頭を抱えた。本気で何かを考えたりするときの真琴の癖で、昔はよく見たな、と和哉は思った。

「なんでそんな意味わかんないことになってるの?」

「俺が聞きたい」

 そろそろ戻らなきゃいけない、と告げ、意識を元に戻そうとしたとき、懐に真琴が飛び込んできた。勢い余って歯と歯がぶつかって和哉は口を少し切った。






 ヒカルが水の中で目を開けると、瓦礫の下で青白い光が輝いているのが見えた。こんなこと考えている場合じゃないとは分かっていたが、綺麗だな、とヒカルは思った。

 思わずその光にヒカルが見入っていると。ヒカルの真横を結晶の剣が掠めた。こいつ俺がいること分かってんのか、と一歩間違えれば死んでいたヒカルは思った。2、3と剣が振るわれ、ヒカルの周りの瓦礫が崩れ、足が自由になった。

 繋がったままの手が引っ張られ、ヒカルは久々に空気を吸った。少しの間に和哉が頼もしくなったようにヒカルは思った。

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