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苺タルトと、偏食な君〜前編〜

店長から頂いたレシピを片手に、私は専属シェフとともに苺タルトに挑戦する。


……きっと店長のレシピだったら、シノアくんだって食べられるはず!


シャートのお嫁さん、ノエルさんのレアチーズケーキも作ってみたけれど、ダメだったの。

シノアくん、甘いものが好きだから切なそうな顔をしていたわ。作ってくれたノエルさんには、申し訳なさそうに見ていたけれど。


偏食なシノアくんが唯一、克服したのは紅茶だけ。ただし、私が淹れた紅茶しか克服出来てない。

だから、私は思ったの。

私が作れば、それ限定でも食べれるようになってくれるんじゃないかって。


でもね、それには確信がない。

だから、確実な確信がない今は今回の苺タルトは絶対に食べて欲しいため、店長のレシピと言う訳なのである。無理言って苺も採りたてを分けてもらったから新鮮だ、民達の懸命に作った苺が美味しくないはずがないの。


なんて考えながらレシピと睨めっこしていると……、徹夜明けなのかシャートが顔色の悪い状態で、ふらふらしながら厨房へと入ってきた。

すると、普段から食べる専門な私がいることに驚いたのか、シャートは動きが一時停止してしまっている。


「なーに、シャート? 大食いな姉さんが料理してたらおかしいかしら?」


そんなことを拗ねたような声で言えば、その声を聞いた途端我に返ったのか、慌てて拗ねた私を宥めようとする、我が弟。

君は私の旦那なの? それとも父親なのかと思わず悩みそうになるくらい、弟は私が拗ねたことに対してとても慌てていた。

……シャートはお嫁さんに尻を引かれるタイプなるだろうね、きっと。

まあそっちの方が男性は幸せになれると近所のおばさま方の井戸端会議で聞いたことがあるし、それなら現状維持ってことで良いかとそのことを内心で思っておくだけにしておくことした。


……断じて、料理していることを驚かれたことに対する仕返しじゃないのよ。違うからね?


なんて、誰にも聞こえないのに内心でそう言い訳してしまい、私は思わず苦笑いする。

そうしたと同時に、シャートは何故か私を後ろから包み込むように抱きしめた。


……昔は、私よりも随分小さかったのにこんなに大きくなっていたのね。


わかってた、わかってたはずなのに弟に抱きしめられたことで更に自覚させられた。


「作れないから離して、シャート」


なんて、つれないことを言ってみる。

するとシャートは素直に私を離し、脚立の上に座る。そして深刻そうにため息をついた。

さすがに心配になり、どうしたの? と聞いてみると、シャートは頭を抱えながらぼそぼそと小さな声でこう話す。


「最近、ノエルに避けられているような気がするんです。今更、シスコンの酷さにドン引きされたのでしょうか? 俺はどうしたら……」


シャートってば仕事だけではなく、実際に精神的にも弱っていたようね。

本当、こう言う面ではシャートは頼りないわね、我が弟ながら情けないわ。


「あのね、シャート。人間いつ死ぬかわからないわ。相手がね、亡くなってからああすれば良かった、こうしとけば良かったって後悔する方が辛いものよ。

だからね、シャート。当たって砕けなさい! ノエルさんを知る努力をしなさい、あなたはまだ彼女が自分を好いているってわかっているんだから、まずは仕事終わりに1番に会いに行きなさい。

待ってるだけじゃなく、気持ちを伝えようと言葉にする努力をしなければ、行動に気持ちを見せる努力をしなければ、誰もシャートの考えていることを理解出来ないの。好きなら好きと言いなさい、それが恥ずかしいならあなたの気持ちに合う花言葉がある花を贈りなさい。

仲良くなりたいなら、どうすれば仲良くなれるのか相手のことを考えて一生懸命考えなさい。失敗してもいい、行動を起こさないよりは相手も仲良くなりたいんだと気づくきっかけになるわ。相手が動くのを待ってばかりじゃ、いつまでも今の状態のままよ」


私は捲したてるようにそう言った後、何事もなかったかのように私はカスタード作りに励み始めれば、その数分後には足音が遠ざかって行く音が聞こえてきて、やっと行動し始めたかと私はニヤリと笑いながら、カスタード作りを頑張っていれば専属シェフは感心したような声を上げた。


「自分より年下とは思えないくらい素敵なアドバイスだったと思います」


側にいて、癒されるような雰囲気を出しながら専属シェフはそう言ってくれた。

彼もまたたくさんの人に傷つけられた。なのに、彼は人を恨んでもいなく、復讐しようとも思っていないとそう聞いた。

それだけではなく、彼は平等に皆に、美味しいものを作ることで幸せを与える仕事に就いた。


……彼は捨て子らしいの。

お父様が保護したらしくてね、子供がなかなか出来ない使用人の養子にするように手配した。その使用人が、先代のシェフだったと言う訳。


「ありがとう。

私はね、シャートにも幸せになって欲しいと思っているし、使用人皆が幸せになって欲しいと思っているの。血は繋がってはいないけれど、皆のことを家族だと思っているからどうかあなたも幸せになってね。

私ね、あなたにとても感謝しているの。シノアくん、偏食でしょう? 聞いてるわ、あなた彼にだけは見た目は同じでも食堂の味に近い別の味付けで出してくれているんでしょ。

シノアくん、とても感謝していたわ。嬉しそうにもしていた。忙しいのにありがとうね」


私はカスタードクリームを作る手を止めることなく、顔だけシェフに向けて笑って見せる。

すると、シェフは嬉しそうに頬を緩ませて、その声を聞いている側も思わず気持ちを穏やかにさせるくらい穏やかで、優しい口調でこう言ってくれた。


「良く、聞かれるんです。

……生みの親を恨んでいないのかって。

私はむしろ感謝しているんです。こうしてシャリー様に直接お礼を言ってもらって、シノア様の役に立てて、私にとってこれ以上に幸せなことはありません。

私は人間が好きです。貴族も恨んではいません。私が拾われたのがシド様で良かったとそう思っています、あんな優しい方に拾われてどうしてらこの世を憎むことが出来るのでしょう? 使用人の子供だと言うのに学ばせてくれた、別の町の料理店で修行にも行かせてくれた人々を恨むなどおこがましいことです。

私は幸せな人間です。だから、幸せを分けられる仕事に就きたかったのです。私にとって、その仕事とは料理人です。私はこの場にいて、美味しかったと言われること以上に幸せなどないのです。

生みの親が私を産んでくれなかったら、こうして幸せにもなれませんでした。だから私は、生みの親を恨むことは出来ません。綺麗事だと思われるかもしれませんが、正真正銘私の真意です」


きっと、心からそう思っているのだろうとそう思う。その気持ちが嬉しくて、お菓子作りは意外と体力を使うのだが絶えず笑顔で作ることが出来た。




作り始めて3時間後、やっと苺タルトが完成し、後は食後まで冷やしておくだけになった。

街を歩き回っているとは言え、私は同年代の少女と比べたら体力がない方だからか、苺タルト1つ作っただけでもう身体が悲鳴を上げている。


「シャリー様、次は手料理でしたよね」


と、にこにこと爽やかに笑いながらそう言うアルトの体力が羨ましかった。

さすがは常日頃からずっと、料理をしているだけはある。苺タルト1つ作ったところで、アルトは疲れることはないらしい。


そう言えばいつも楽しそうに作っているけど、今日はいつも以上に楽しげにしている。もしかして、アルトは……。


……アルトは、誰かと料理を作ることが好きなんだろうか……?


そんなアルトが1番一緒に料理して楽しく思うのは、恐らく彼ね。きっとそうだわ。


「提案があるの」


そんな私の言葉に、はい? とアルトは首を傾げて返事をしてくれた。













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