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食堂にいた冒険者達は、冷やかすように軽やかな音で1度、口笛を吹いた。

その音で、シノアくんは我に返ったのか私の肩を掴み、抱きついていた私を引き剥がすように離した。

今まで感じていた温もりが消えて、少し寒いと感じた。あの温もりが恋しいと思った。


「かっ、からかわないでください!

とりあえず、まずはシャリーさんのことについてです! ……昔話をしましょう」


そう言った途端、シノアくんの優しい雰囲気は消え、冷たささえも感じさせた。


「僕は、シャリーさんを苦しめるこの歴史をけして許しません。

ですが、僕はシャリーさんを縛らせる鎖ごと彼女を愛しています。

僕を、化け物と呼ばれていた僕を能力抜きで愛してくれたのはシャリーさんだけだから。

僕の化け物染みたこの魔力があなたを助けれるならば、僕は魔力を全て捧げます。

僕の1部であなたの縛りが解けるなら、僕は腕でも、足でも捧げます。

そのくらいシャリーさんが好きです。

だからこそわかります。そうしたらあなたは多分ずっと後悔し続けると思うから、だから僕は……、店長さんと同じ道を選ぶことにしました。

だからシャリーさん、食べながらで良いので聞いてもらえますか……?」


そう真剣な表情で言われてしまったら、私は頷くことしか出来なかった。



「この話は、民を愛する血筋レートル家が犯した最初で最期の罪のお話です」



私の体質がこうなってしまった元凶の物語は、そんな一文から始まった。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



物語は今から随分と前の話です。

レートル家は民を愛し、民を優先するために当時は孤立しておりました。

ですが、民から愛され、民から慕われ、ささやかながらも幸せな生活をしていたそうです。


そんなレートル家には白のワンピースがよく似合う、可憐な少女がおりました。

そんな少女は精霊から愛され、民からは「精霊の巫女」と特に慕われていたそうです。


そんな少女は恋をしました。

……春の時期に必ずやって来る旅人に。


その時、誰も気づいてはおりませんでした。

その少女の恋が後世の血縁を苦しめる、鎖となる元凶となることを……。



「得体の知れない男に私の愛娘をはいそうですかと認められる訳がない!」



少女と旅人は惹かれあっていき、恋仲となり、将来を共に生きていくことを意識し、少女は将来の旦那として旅人を紹介しました。


そしてその時少女の父親から言われたのがその一言だったのです。

少女はどうして認めてくれないのと怒り、そして悲しみました。


少女と旅人はその時、恋に恋をしていた。……2人は恋に盲目になりすぎていたのだ。

冷静であったら少女の父親の言葉の真意を汲み取れていたのかもしれません。



少女が愛したのは旅人でした。

旅人は1つの地には長くはとどまることはあまり多くはありません。

だから、少女の父親は恐れていたのです。……旅人が少女を自分達から奪ったと勘違いしてしまうかもしれないと言うことに。

そして、少女は自分達を裏切ったと勘違いして、暴走してしまうんじゃないかと恐れました。


だから、わざと悪役をしたのです。

きっと聡明な娘は、聡明な旅人はそのことに気づいてくれると信じて。

だけど、少女の父親のその願いは叶うことはありませんでした。


「2人はどこだ!!」


さよなら、そう書かれた手紙を少女の父親は握りしめ、街中をすみずみまで2人を探しました。

だけど、彼らの姿はすでになくて……。


少女の父親は、期待を裏切られたことに絶望し、静かに涙を流し、まるで腰が抜けたようにガクンッと地面に崩れ落ちました。


その姿を見て精霊達は怒りました。


少女の父親は精霊達の姿も見えず、声も聞こえませんから、彼は知らなかったのです。

……自分も精霊に愛されていたことに。


少女の父親は姿が見えなかろうが、精霊が宿る祠に来ては、お供えをし、まるで見えているかのように祠を愛しそうに見る彼が精霊達は好きだったのです。


……姿が見えている少女以上に。


だから、少女も愛しているとは言え、もう1人の愛しく思う人を傷つけたことが許せませんでした。




何も知らず、小さな村でささやかな暮らしをしていた少女と旅人。

ある日、そんな少女に変化が起きました。

どんなにどんなに食べようと、食欲と言う欲求が満たされない少女。

我慢すればするほどに飢えは強まり、何もかもが美味しそうに見えて……。


我に返った時にはもう遅し。

気がついたら、少女の手は真っ赤に染まっておりました。


これが少女に与えられた、精霊が愛している人を傷つけた罰だったのです。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「それがレートル家の最初で最期の罪です。

精霊はきっと、旅人をどんなに愛しているのか話せばわかってくれたはずです。

それをしなかった彼女らは当然の罰を受けたと、僕は思っています。

それが「精霊の巫女」の務めです。

ですが、なぜシャリーさんまで縛られなきゃいけないのですか……!」


そう言ったシノアくんが、どれだけ感情が高ぶっているのかよくわかる。

彼の高い魔力が少し、感情的になっているような気がするから。

すると、そんなシノアくんの肩に店長はポンっと置き、静かにこう言った。


「それはな、シャリー様がこの物語の「少女」の生まれ変わりだからだ。

そして、俺はその「旅人」の生まれ変わりの前世を持つ。だが、俺はシャリー様のことを僭越ながら妹のようにしか思えなかったように、シャリー様はシャリー様だ。

そんなシャリー様のことを解放してやりたいと思った。だから、俺は精霊使いの部隊をやめてでもレートル家専属の精霊使いなり、この時を待っていた。

どうか、シャリー様を幸せにしてやって欲しい。それで、シャリー様と「少女」は魂は酷似していても別人だってことをわからせてやってくれ」


「あなたにそんなことを頼まれなくても、そうなるように努力しますよ」


私が会話に参加する暇なく、シノアくんは瞬時に店長の言葉にそう返したのだった。




それから1年後、だいぶ食欲も減ったような気がするが、相変わらず私は大食いの類いで。

それ以上に変わったことは……。


「シャリーさん、やっぱりむりですぅ……。いくらシャリーさんを愛していても乗り切れないものは乗り切れませんでしたぁ……」


シノアくんが婿養子になりました!

ちなみに、なぜにいつも以上に弱気なのかと言うと……、せめて紅茶は飲めるようになろうと特訓していたからのようです。


「なら、私が紅茶淹れてあげますね」


私、食べるのも好きですが、作る方も結構好きなんですよ?















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