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私は食べることが好きだ。

だけど、同時に食べなければならないと言う義務とされているのが食事だった。

だから今も本当はシノアくんを追っかけて、この街の真相を、そして私が何故たくさんの食事を吸収しなければ命に関わるのか、実際に自分の目で確かめたかった。

だけど、私にはそれは許されない。

私が王都に行くことも、この土地がきっと許してはくれないだろう。


それが私の役目だから。

民を守るためには、私はどこかに出かけられなくても良い。大食いだって引かれても良かった。

自分は他の誰かと違う、そんな理由で病んでいた時に助けてくれたのは民だった。

だから、私が今度は助ける番なの。


小さい頃、食べることが嫌いだった。

精神的にはお腹いっぱいなのに、摂取カロリーが足りなくて、無理やり吐くまで食べさせられた記憶がある。私が吐く姿を苦しそうな、自分のことを責めるような表情をしながら両親は、あなたが生きるためだからと吐き続ける私に食事を摂らせた。


「この街が、あの時禁忌を犯さなければこの子はこんな目に合わなくて済んだのに!」


ある日の夜。

夢見が悪くて飛び起きた私は、水分を摂ろうとキッチンに向かっていた時、キッチンに行く時には必ず両親の部屋を通らなくてはいけなくて、偶然2人が夜中にああやって泣いて、自分のことを責めていることを知ってしまった。

その時はまだ幼くて、私のことが嫌いで無理矢理食べさせられているのかと思ってた。

寄り添い合い、2人で泣いている姿を見て、苦しかったのは私だけじゃなかったんだって思った。


そんな次の日。

現在、食堂を切り盛りしている店長が屋敷にやって来た。彼は、元々は精霊使いだったのだ。

突然退職した男の精霊使いを調べろとシノアくんに言っていたが、その男の正体とは、調べろと言っていた張本人である店長だ。


彼は、精霊使いとして優秀だった。

今だって勿論優秀だ。


民達は、彼を食堂を切り盛りする店長くらいにしか思っていないんだろうが、事実は違う。

食堂の店長はただのカモフラージュでしかない。本当の役職は、レートル家の専属の精霊使いだ。彼は、私を守るために王都の魔法部隊をやめたらしい。


何故彼にわざわざ魔法部隊の仕事をやめたのか? そう聞いたことがある。

すると彼は、精霊達に今まで見たこともないくらいの必死な形相でそうするようにと頼まれたからだと、そう教えてくれた。

私は精霊達に愛されやすい体質らしい。だが、しかし私には精霊達の姿は見えていない。

姿を見えていないことを寂しく思う精霊もいるらしく、私の代わりにそんな精霊と仲良くするのも店長の役目だとされているらしい。


結局、たくさんの人に私は守られてる。


したくもない、その再確認をしてしまったことをキッカケに堰が切れたように涙が溢れてきた。

だけど私はその涙を気にすることなく、明日を生きるために食事を続けたのだった。




シノアくんはあの日から1ヶ月経っても、この街に現れることはなかった。




だから、ああまたかって諦めようと思った。

そのタイミングを阻止するかのように、シノアくんはこの街の食堂へ現れた。


「すみません……! 資料を借りるために1ヶ月もかかってしまいました……!

調べるだけなら半日で終わったのですが、シャリーさんも真実を知りたいと思って持ち出しの申請してたら、時間がかかってしまったんです」


走ってきたのか、たくさん汗を掻いていて、息切れも酷かった。

もう、会えないかと思った。

会えたことが嬉しくて、嬉しくて私は汗なんて気にすることなく、シノアくんを抱きしめた。


「ちょ……! シャリーさん、僕汗臭いですから、今はダメです……!」


そんな訴えなんて聞こえてない振りをして、私は汗を掻いている彼の額をハンカチで拭った後、頬を手に添えて額と額を合わせて……。


「待ってたの、ずっと……。だから、汗臭いくらいじゃ気にしないわ。だって、寂しかったんだもの。そんな意地悪なこと、言わないで」


出会ったのは1ヶ月前で、話したのはあの数時間のことだけど、彼に惹かれるには十分すぎるくらいの時間だったと今なら思う。

一目惚れなんてしないと思ってた。


数時間、話しただけで人はこんなにも惹かれるものなんだって気付けた。

シノアくんがいつ戻ってくるかわからないだけで、また自分の側からいなくなってしまったんじゃないかって不安にもなった。


なのに、シノアくんに一目会えただけでその不安も、胸の痛みも取れてしまうくらいにまた会えたことが嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。

そんな感情を抱いたことで私は……。


……シノアくんに恋してしまっていると、気づいてしまったの。


そう考えたと同時に、頬に添えていた私の手を優しく外し、シノアくんは抱きしめてくれた。

そして……。


「貴族なんて好きにならないと高を括っていたのに……、あなたは僕の心にいとも簡単に入ってきて、突然側からいなくなるなんてこと絶対にしないでくださいよ?」


その言葉は、私の気持ちを受け入れてくれたって思っても自惚れじゃないんだよね?














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