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オトナはコドモに絶対勝てない。

作者: 渡部潤一

こないだ実家帰ったんです。一年半ぶりぐらいに。駅を降りると見慣れた、もはや懐かしい光景。どんどん街が廃れていくのは悲しいことではあるがノスタルジィとしては雰囲気を醸し出していた。

父親が迎えに来てくれて、「なにも変わってないね」「いや、人がどんどんんいなくなってるよ」と言葉数少ない会話をし、田んぼの風景をぼんやりと見つめながら実家が近づいてくる。


思う存分、充足してやろうと家の玄関をあけると、ギャァギャァ喚き散らすノイズの塊。ヤツだ。妹の子供だ。暴れまわってやがる。おいおいこらこらそこは俺の席だぞ。

名前をショウヤと名付けられた頭でっかちのその物体は発狂したかのごとく奇声をあげながら家じゅうを爆走して壁に激突している。仏壇におみやげを備え、チーンと拝んだがそのノイズにかき消され供養もあったもんじゃない。仏様となった祖父は気が短い人だったのでじゃかあぁしぃと言っているに違いない。

「ウォッ!?」「ウエッ!?」「マーンマ」「%#*^*()XX」さすがに妹も苦笑している。新しいボールを買ってもらったらしく。ビィーヤァーと絶叫しながらボールに突っ込んでいく。これではまるで特攻兵ではないか。

妹が33歳の厄祓いにいくというので、さぁこの特攻兵をどうやって扱えばいいのか悩む。父親と母親、祖母は慣れたもので「ほーらほら、ボールだよードーン」と余裕で一緒に遊んでいる。当然おれは子供を授かっていない。そして子供に触れる機会が全くと言っていいほどない。

「ジュンが懐かしがる食べ物を作るから」と母親が台所に立つ。心底こころ優しい母親である。祖母は散歩へ、父親は車の洗浄。居間にいるのはおれと特攻兵だけだ。さて、どうする。全くわからずテンパッてしまい「最近どうッスか?」などとつぶやいてみるが「ウェッウェッ」の繰り返しである。

ははぁ、これは子供と同じ目線になればいいのだと気付き、もうどうにでもなれとばかりにおれも爆走し、壁に激突する。特攻兵はいいぞいいぞもっとやればかりに手を叩く。よほどおれの発狂ぶりが面白いらしい。

父親が居間にもどり、特攻兵がいない隙間に父親とおれとで原田眞人監督の「日本のいちばん長い日 」を鑑賞する。「このあと陛下がねぇ...」「決起だ決起だ!」と二人でエキサイトしながら見、次にフォークソングフェスティバルの録画を鑑賞する。南こうせつと加藤和彦が一緒に並び、「あの素晴らしい愛をもう一度」を感慨深く歌っている。「いい歌だよね」「そうだな」と、言葉少なげに見ていると特攻兵が戻ってきた。ボールで遊び疲れて休みたいらしい。よし、発狂しなくてすむと、ほっと一安心して映画を鑑賞していると特攻兵が今度はぐずりだした。子供は泣くとあやさなければならないものらしい。ほーらほら、おじさんだよぉ、じいじだよぉとあやすも一向に泣きやまない。むしろブーストしている。


そして出た、最終兵器、しまじろう。


しまじろうのDVDを見せると特攻兵はまさに、隊長の命令を背を正し聞くかのように夢中になって映像を見、一気に泣き止んだ。頼む、俺らの素晴らしい日を侵さないでくれ。

「トーイレと仲良ーくしーましょうね」と訳の分からない唄を発するしまじろうに8月15日、天皇陛下と南こうせつは負けたのだ。

キッチンにあるテレビにもしまじろうが映し出され、母親が作ってくれた里芋煮を食べ、自転車を借りて散歩がてら墓参りに出向いた。地区で唯一のタバコ屋が無くなっていた。

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