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予言と少女
――――結界が、壊れたと言う。
封じられていた魔王は怒りに身を焦がし、あらゆる者を憎み、その力を奮うという。
少女は手に持っていた一冊の本を開く。
『光の封印は闇夜に呑まれる。
闇夜の王が目覚めし時、地は赤に染まるだろう。
神は闇夜だけにあらず。
光の刃は主を見つけ、四方の宝を宿す。
星を巡る光は一つとなり、闇夜の王を眠りに誘うだろう。』
それは少女の母が残した世界に二つだけの予言の書。
一つは聖殿に。一つは少女の手に。
だが、少女の手に持っている予言にはまだ続きがあった。
『闇夜の王は己の運命を知っている。
ゆえに、その運命に抗う術を知っている。』
「―――だからこそ、私はここで守りましょう」
少女は知っている。この手に持つものが“光”だと。
決意を新たに少女は書を胸に抱きしめる。
いつか来る、使命を持つ者のために。
背表紙の裏側――――最後のページに綴られた彼女の言葉を胸に抱きしめるように。
『どうか、この子が生きていく未来では
優しい世界になっていますように。
この子の瞳に映る景色が
幸福な色にそまりますように―――。』