書店で旧友に再会した件
私は先日、ある旧友と再会し、そして二度と会わないと決めました。
狭量だと思われる方もいるかもしれません。しかし私は許せなかったのです。
その概要をここに記そうと思います.
ある休日の夕方のことです。
以前から読みたかった本があった私は、近所の書店に来ていました。
その本というのは某ライトノベルの続編で、ちょうど今日が発売日でした。
私は一昨年に大学生となり、ライトノベルとは疎遠でありました。しかしその某ラノベは10年は続く名作で、毎回シリーズが出るたびに購入していたのです。
書店に入り、3番目の角を曲がるとライトノベルコーナーがあります。
私はあたりを見回してからそそくさと角を曲がりました。こうしてると万引き犯のようですが、もちろん違います。
こう見えて?私は真面目なキャラで通っているので、知り合いに目撃されるのは好ましくないのです。オタクというのは往々にして偏見の目で見られるものなのです。
まあ隣の県の大学なのでめったなことはないでしょうが・・・
ラノベコーナーを見やるとすぐにある本が目に留まりました。
お目当てのブツです。
表紙には赤いローブを纏ったかわいらしい少女が描かれています。本作のメインヒロインです。
今作は重要なターニングポイントとなることは、前々から告知されていました。
否が応でも期待は膨らみます。
財布があることを一応確認して、手を伸ばそうとした、そのときでした。
「おうっ、留田」
お察しの通り留田というのは私の苗字です。
いきなりのことに、思わず飛び上がってしまいました。
おそるおそる振り返ると、そこには髪を茶色に染めた男が立っていました。背丈は170センチ位で中肉中背といったところでしょうか。耳にはピアスをつけています。
「・・・なんだ、藤田か」
この男は藤田弘毅(仮名)、私の高校時代の友人でライトノベルをともに語った仲でもあります。
同じ大学ではありません。バラされる心配もないでしょう。そのことに安堵しました。
「なんだとは全く失礼なやつだな」
そういって藤田は私の背中をバンバンとたたいてきます。
やたら馴れ馴れしい所がこの男の長所でもあり、短所でもあります。
私と彼は本棚にもたれかかり、いろいろなことを話しました。
進学した大学のこと、新しい友人のこと、バイトのこと、エトセトラ・・・
そして話題は恋人のことに移ります。やはり青春に恋愛はつきものでしょう。
「留田は彼女、できたのか?」
あきらかに、ないだろうという口調です。
しかし私は口元がつり上がるのを抑えられませんでした。
「できたとも。一つ上の先輩だ」
本当です。去年の秋、私は晴れてリア充の仲間入りをしたのです。
「そっか!おめでとう。あの留田がなぁ・・・」
意外なことに藤田は喜んでくれました。
私は自分の口調が少し自慢気になったことを恥じました。
そう、あの一言を聞くまでは・・・
ひとしきり賛辞を述べた後で藤田はスウッと目を細め、心底憐れむように言いました。
「...で、なんていうギャルゲー?」
この日私の携帯から、電話番号とメールアドレスが一つずつ消えました。
着信拒否リストが一行増えたことも付け加えておきます。