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もうホームルームが終わる頃だろう。
わたしはベッドに仰向けに寝ながら、ぼんやり思った。
ベッドは白いカーテンで仕切られていた。部活が始まると、運動部などでケガをした生徒が頻繁に来るらしいので、姿を隠すためだった。
宇垣くん……遅いなぁ。
ホームルーム、まだ終わってないのかな。
こうして保健室にずっといるのも、退屈だった。
早く宇垣くんに来て欲しい。
そう思った時、保健室のドアが勢いよく開けられた音が、カーテン越しに聞こえてきた。その直後に聞こえてきたのは、大勢の話し声。
野球部あたりが集団でやって来たのだろうか。
そんなことをぼんやり思っていると、
「赤崎さん」
ざわめきの中から、宇垣くんの声が聞こえてきた。
「カーテン開けても、いい?」
「え……うん、いいよ」
わたしが答えると、カーテンが勢いよく開けられた。
カーテンの外にいたのは、大勢の生徒たち。
わたしの目に飛び込んできたのは、男子も女子も入り交じった、クラスメートの面々だった。
「え―――」
何が起きたのかわからなくて、視線をさまよわせる。すると、みんなが一気に詰め寄ってきて、口々に「ごめん」と言い始めた。
「ごめんね、赤崎さん! わたし、ずっと、いじめのこと知ってたのに何もできなかった……ほんとに、ごめんなさい!」
「あたしも。もう、見ないフリなんてしない! ムシが良すぎるかもしれないけど、友達になろう!」
視界に収まりきらないくらい、大勢の人達がわたしの目の前に立っていた。
「みんな、赤崎さんに謝りに来たんだよ」
カーテンを掴んでいる宇垣くんが、言った。
「謝りにって……みんな、どうして……」
戸惑うわたしに、一番前にいた女子が言った。
「宇垣くんが、帰りのホームルームで、みんなに言ったの」
「少しでもいじめがダメだって思っているなら、赤崎さんに謝りに行けって」
別の女子が、興奮した口調で言った。
すると男子の一人が口を開いた。
「宇垣のあの言葉には目から鱗だったぜ……。今まで無視したりして悪かったな、赤崎」
そう言ったのは、冬園元くんだった。そしてまた、みんなが「ごめん」と謝り始める。
宇垣くんの方を見ると、彼はニッコリと笑っていた。それで、ようやくわたしは理解できた。
いじめは、もう無くなったんだ。
嬉しくて、わたしはみんなに視線を向ける。と、そのクラスメートたちの中に、親友の姿を見つけた。
視線が合う。
瑠璃が、今にも泣きそうな顔をして、そこにいた。
「――瑠璃!」
呼ぶと、瑠璃はしばらく躊躇って、わたしの胸に飛び込んできた。
「真純……ごめんね、わたし……」
声と肩を震わせながら、瑠璃はわたしの胸元で言った。
「わたしが、真純の靴の中に、画鋲入れたの……ごめん、ほんとに、ごめんね」
「え――?」
「怒る……よね、でも、わたし、どうしても謝りたいから」
わたしは、泣いている瑠璃を力一杯に抱き締めた。
靴の中に画鋲を入れたのが、瑠璃だったなんて。
驚いた。
けれど、それだけ。驚いただけだった。
「瑠璃」
穏やかな声で、胸の彼女に言ってあげる。
「わたし、怒ってなんていないよ。こうやって話せるだけで、嬉しいよ。だって、瑠璃は――」
目の奥が熱くなる。
「だって瑠璃は、わたしの、大事な友達だもん」
わたしは、保健室にいるみんなを見た。
「みんなも、わたしの友達だよ」
保健室に溢れるぐらいの笑顔。
それは、諦めかけたこともあったけど、ずっと、願っていたもの。
クラスのみんなの、暖かな笑顔。
涙が頬を伝っていくのがわかった。
悲しいからじゃない。
もう悲しくなんてない。
わたしは、嬉しくて泣きながら、笑った。
「みんな、友達――!」




