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「お父さんのことを、恨んだりしたらダメよ」
教会の門のところまで見送りに来てくれた叶が、別れ際に言った。
「お父さんは、なにも智秀くんをいじめようとして、やったわけじゃない。きっと、智秀くんのことを考えて、ロザリオを取り上げたんだと思うわ」
「それは……そうです、けど」
彼女の言葉は、的を射ていた。
勉強以外のものに気を散らしてはいけない。だからアクセサリーに心を奪われてはいけない。
そんなことを、父親は言っていたような気がする。
「だから、お父さんを憎んだり恨んだりしてはダメよ」
「――叶さんが、そう言うなら」
「うん。いい子ね」
ほほ笑んだ叶の唇を見て、智秀はまた頬を熱くした。あの女性の唇が自分の額に触れたと思い出すだけで、体の芯が白熱した。
「クラスメートの女の子は、どう?」
思い出したように、叶は訊いてきた。
「彼女は……いま、学校に出て来ています。でも、いじめはまだ続いてて、解決してません」
「そう――」
叶の顔に陰りがあった。件の女子、赤崎真純を心配しているのだろう。実際に会ったことのない人のことでこんな表情ができるのは、彼女の長所だと思う。
「智秀くんは、大丈夫?」
「僕、ですか。僕なら大丈夫ですよ。いじめも何もやられてません。それに、もしこれから何か起こるとしても、きっと大丈夫です。叶さんに……その、もらいましたから」
恥ずかしい気持ちで言いながら、額をさすって見せた。
父親にロザリオを取り上げられた。
けれど、今日また新たに、青樹叶から頂いた。
誰にも知覚できないロザリオ。
彼女がいつも自分の傍にいてくれる証。
ロザリオという名のキス。
額に触れるだけで、あの時の感触が呼び起こされるようで、恥ずかしいけれども嬉しかった。失ったものよりも得たもののほうが、遥かに大きかった。
「うん。大事に、してね。忘れたりしたら、ひどいんだから」
恥ずかしさを誤魔化すように、叶は言った。彼女だってあの行為をなんとも思っていないわけではなかったのだろう。
「わ、わかってますよ」
しばしの沈黙。
「じゃあ――僕は、これで。こんな時間にお邪魔して、すいませんでした」
「ううん、いいのよ。また、来て」
「はい!」
小さく手を振って、帰路を歩きだす。
心が優しい気持ちで満たされていた。




