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その日の授業中、珍しく智秀は窓の外へ目をやることが多かった。いつもなら授業中はずっと黒板に向き合っているはずなのに、今日は集中力が今ひとつ欠けていた。
窓の向こうには、薄い雲をちりばめた青空と、その下に広がる街の景色が見える。
ここ最近は晴天が続いている。曇り空を長らく見ていない。梅雨に入ったら、当分この青空は見えないだろう。
五月も、あと少しで終わり。六月になったら、修学旅行の準備が始まって、いろいろと忙しくなる。
四月の頃は、彼女もきっと修学旅行を楽しみにしていただろう。
赤崎さん……。
思考の端に、彼女のことが引っかかっていた。
赤崎真純。同じクラスの女子だが、一度も話したことはない。
だけど、どんな人柄かはそこそこ知っている。
休み時間に友達と楽しそうに話しをしていたり、同じ掃除場所でキチンと箒で掃いていたり。そういう彼女を、何気なくだが、智秀は見ていた。
しっかりした女の子だな、と感心していた。
騒ぎすぎず、静かすぎず。どこにでもいそうだけど、どこにもいない。赤崎真純は、そんな女の子だった。少なくとも智秀の目では、悪いところは見あたらなかった。
その彼女が、いじめられているのを知ったのは2週間ほど前のことだ。例の女子のグループが、朝のホームルームが始まる前、真純を集団で蹴っていたのだ。ちょうど昨日と同じように。
驚いたというよりも、恐かった。
どうしてあんなふうに人を傷つけられるのか。彼女たちのやっていたことは、智秀の理解の外だった。
ひょっとしたら、もっと前からいじめがあったのかもしれない。表面化しただけで、本当はもっと長い間、彼女は耐えていたのかもしれない。
明日は……学校来るのかな。
本当にただの風邪なら、出てこられるだろう。
だが、もし、明日も休んだとしたら。欠席の理由は風邪ではないという疑惑が、確信に変わる。
そして同時に新たな疑いが生じる。
不登校――。いじめのせいで、学校へ二度と来ない。
そういった可能性も、無視できなくなるだろう。
赤崎さん、どうなんだ。
無性に気になった。周りからの視線があるときは無関心を装っていても、心の奥底では彼女のことが気がかりだった。
彼女が明日、登校してくるかどうか。
そんなことは明日になってみなけばわからない。
そう。
神様でもないかぎり、明日のことなんて誰も知り得ないのだ。