表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/83

試験終了の合図が監督員の口から発せられると、それまで教室に充満していた緊張感が、風船の空気のように一気に抜けてていった。

智秀はシャープペンシルを机に置いて、背筋を軽くそらせた。

これで、今日のテストは終了だった。

解答用紙が回収され、解散になる。教室がにわかに活気づく。こういう風景は、学校のテスト終了直後の様子と全く同じだ。

ざわつきの中、問題用紙と筆記具を鞄に入れて、席を立つ。

「宇垣ぃ」

同時に、冬園が教室に入ってきた。テストが終わると一目散にここまで走ってきたようだった。

「おつかれ、冬園」

「おう。ところでよ、テストも終わったし、どっか寄ってこうぜ」

時刻は午後五時を少し過ぎたところだ。まだ夕方だ。窓の無い教室からでは見えないが、外の街はすでに夕暮れ色に染まっているだろう。

「いいね。じゃあ、どこ行く?」

「ゲーセン行こうぜ、ゲーセン!」

「やっぱり」

いつものパターンだった。塾のテストが終わって、時間があれば二人でゲームセンターに行くのが、すでに習慣になっていた。

冬園は格闘ゲーム全般が好きで、しかも、かなりの腕前だ。

宇垣智秀はというと、ゲーム自体そこまで好きでもないし、上手でもない。冬園が言うには「反射神経が鈍い」らしい。唯一の得意なゲームは、麻雀ぐらいなものだった。

そんな二人だが、冬園とのゲームセンターは何かとヒマすることがないので、彼の案に異論は無かった。

ただ、一つだけ不安なことがある。

「ゲーセン行くのはいいけど、この間みたいに乱入対戦で無限コンボ決めて、対戦相手を怒らせないでくれよ」

「ハハハッ、あれは向こうの腕の無さが悪いんだぜ」

カッカと笑う冬園に、ついため息を洩らす。


あの時。

僕がどれだけ相手をなだめるのに苦労したか……。


冬園は一人だけ面白そうに笑いながら、

「よし、じゃあゲーセンで決まりだな」

「わたしも!」

突然、第三者の声が二人の間に割って入ってきた。振り向くと、若町思重が鞄を持ってすぐ後ろに立っていた。

「げぇ」

あからさまに冬園は嫌そうな顔をした。

「若町も来るつもりかよ」

「なによ、わたしが一緒に行っちゃいけないの」

言葉を返す思重の口調も、刺々しさを隠そうとしていなかった。

「二人より、三人のほうが賑やかで面白いでしょ」

「お前の場合は賑やかっていうより、うるさいって言ったほうが正し」

「ねー、宇垣くん」

彼女は、冬園の言葉を最後まで聞かず、視線を向けてきた。

これも、いつものパターンだ。

テスト後、冬園と寄り道をしようとすると、若町思重が参加したいと言ってくる。彼女とケンカばかりしている冬園は、自然と嫌そうな顔をする。そして、そういう時に場をまとめるのが、宇垣智秀の役割だった。

お馴染みの言葉を口にする。

「うん、いいよ。若町さんも一緒に行こう」

「やった!」

喜ぶ若町思重。

一方、冬園は不満そうに頬を膨らませていた。まるで拗ねた子供のようなその顔に、話しかける。

「いいじゃないか、冬園。若町さんの言うとおり、人数は多い方が楽しいだろ」

「……まあ、お前がそう言うんなら」

きっと、冬園も心の底から反対しているというわけではないのだろう。もし本当に若町思重が嫌なら、こんなにすぐに折れるはずは無い。

いつも口先でケンカしている間柄なので、「ハイいいですよ」と二つ返事で仲間に入れることができないのだ。

素直ではないのだ、この冬園元は。

「こうなったら、今日こそお前に勝つ!」

「ふっふーん、勝てるもんなら勝ってみなさい」

三人で教室を出た途端、宣戦布告した冬園と、された若町思重。この二人は、太鼓を叩く音楽ゲームで毎回対戦していた。ちなみにそのゲームで冬園が思重に勝っている姿を見たことは、一度も無い。

「見てろ! 今にほえ面かかせてやる!」

そう啖呵を切った冬園だった。

――それから小一時間ほど、三人でゲームセンターで遊んだ。智秀はもっぱら冬園と思重がゲームをしている様子を見ているだけだったが、それだけでも充分に楽しかった。

そして最後に、冬園と思重がお決まりの〝太鼓〟対決をした。その結果もまた、お決まりなものだった。つまるところ今回も、冬園は負けたのだ。負けた直後の冬園は、真っ白に燃え尽きたボクサーのような顔をしていた。

「またわたしの勝ち~」

ブイサインする若町思重に、冬園は悔しそうな視線を向けるだけだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ