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ブランコのギィと軋む音に紛れて、冬園が言った。

「それにしてもよぉ」

塾の帰り道。冬園の提案で、公園で道草を食っていくことになり、なんとなく二人でブランコに座っていた。

「ケータイ取り上げられたって、なにしたんだよ。エロサイトでも見て、架空請求来たのか?」

「そんなんじゃないよ。ちょっと……勉強のことで、ね」

真純との一件は、当然伏せておく。

「おまえん家も難儀だよなァ」

冬園はしみじみとした口調で言うと、ブランコに立って体を前後に揺らし始めた。だんだんとブランコの揺れ幅が大きくなっていく。

「特に父親が厳しいんだよな」

「……うん」

父親は、本当に厳格だ。宇垣智秀の交友関係にも口出しをしてくる。本人には言っていないが、冬園と一緒にいるのを、父親は良く思っていない。

――頭の悪いやつとは付き合うな。

そう、口うるさく父親は言う。父親から見れば、冬園は〝頭の悪いやつ〟だ。だから、彼のことを快く思っていない。

たしかに冬園は、勉強はからっきしダメだ。その判断基準で見ると、ひいき目にも頭が良いとは言い難い。父親の言もあながち的外れではない。

けれど、冬園元は、宇垣智秀が持っていないモノをたくさん持っている。それは具体的に言葉にしたり、数字で表したりできるものではない。実際に会って話してみなければわからない。父親のように、数字だけで人の良し悪しを判断するのは、大嫌いだった。

冬園元は、誰が何と言っても、宇垣智秀の友達だ。彼もきっと、宇垣智秀のことを、そう思っていてくれるはずだ。


友達――。

赤崎さんと、平泉さんは、本当に友達じゃないのか?

一方的な友情だけでは、友達にはなれないのか?


最大までブランコの振れ幅を大きくしていた冬園に問いかける。

「ねぇ、冬園」

「あん?」

「もしもの話だけどさ」

「おぉ、なんだよ」

「僕が冬園のことを友達だと思っているのに、冬園は僕のことを何とも思っていなかったら、僕らは〝友達〟っていう関係じゃないのかな?」

「……なんの話だ?」

冬園はブランコが最下点を通過する時、片足を地面にこすりつけ、勢いを一気に弱めさせた。そして、すぐにブランコを完全に吊り下がったままに静止させる。

「いや、そのまんまの話だよ。冬園はどう思う?」

公園の街頭の青白い灯が、冬園の悩む表情を照らし出していた。

「いきなり、んなこと訊かれてもなぁ……今まで考えたことも無かったぜ」

「だよねぇ」

やはり突然問いかけても、彼から答えはもらえなかった。

「なんだ、お前まさか……俺と友達以上の関係になろうってんじゃないだろうな!?」

「どうしてそうなるんだよ!」

若町思重のようなことを言い出す冬園に、つい呆れてしまう。人が大事な話をしようとしているのに、変なことを言ってくれる。

「まぁ、こんなこといきなり訊かれたら、困るよな」

「そりゃそうだぜ」

冬園が笑った。

「そんなややこしい問題にハッキリ答えられるやつがいるとしたら、そいつは神だよ。人間はそういう哲学チックなことを延々悩むもんじゃねぇのか?」

「……そうだね。うん、冬園の言うとおりかもしれない」

ヘヘッと、冬園が照れ笑いした。


神、か……。


普通の人間には解けない問題に対して、明解な答えを用意できる人。冬園はそんな人がいたら〝神〟だと言った。

けど、彼の言う〝神〟のような人に、宇垣智秀は心当たりがあった。

教会に住んでいる、年上の女の人。

清廉で、いつも悩んでいると道を示してくれる人。

あるいは彼女なら――答えを見せてくれるだろうか。

「あ。やっべ、忘れてた」

思い出したように冬園が声をあげた。

「なぁ、宇垣。明日のテストって、九時からだったよな」

「うん。そうだよ。いつも通りの時間だって連絡があったはずだろ。あっ、冬園、まさかひょっとして……」

ジトっと見ると、彼は誤魔化すように笑った。

「いやーっ、先生の話、なんも聞いてなかったんだよなぁコレが」

「――冬園」

これが『喉元過ぎれば熱さ忘れる』の権化だろう。

若町思重の言ったことも、間違いではない。

進歩のない男。

けれど、それが冬園元らしいと言えば、らしい。そのいい加減さには困ったものだが、不思議とそんな彼を嫌いになれない。

「まったく」

笑ってしまう。

「冬園はいつも最後の連絡を聞き逃すんだな」

「だって眠いじゃねぇか」

「……それは否定しないよ」

一瞬の間があって、二人は同時に笑った。


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