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首から下の全身が、温もりに包まれていて、気持ちがいい。湯船に張った湯は、わたしが身動きするたびに、ぴちゃぴちゃと水音を立て、その水面を揺らした。
「ふぅ――」
体中を揉まれているような心地よさに、ついため息。
一日を締めくくるバスタイムは、いつだってリラックスできて大好きだ。
視線をちょっと下げると、素肌が厚い湯の層を通して揺らいで見える。小高い丘のような胸の谷間から、へそが覗けていた。
その、へその上のあたりに、青紫色のアザがうっすらと浮かんでいる。柏原さんたちに蹴られたときの、傷跡だった。アザは他にも右腿の外側に一つ見える。
腿のアザを人差し指で撫でてみると、弱いけれど、鈍い痛みが走った。
傷跡……目立たなくなると、いいなぁ。
人目にそうそうつかないけれど、傷跡なんて残って欲しくない。画鋲の刺さった跡ぐらいなら、気にならないだろうけど。
画鋲――。
あれは、嫌だった。わたしの靴から画鋲が出て来た時、すごく恐かった。柏原さんたちがやったことだとわかっていても、彼の前で気丈に振る舞えなかった。
まだいじめは終わっていない。
そう、痛みをもって教えられたような気がした。ほのかに期待していたことを裏切られたような気分で、悲しかった。
けれど彼は〝本当はみんないじめをダメだと思ってる〟と言ってくれた。あの言葉を、信じたい。真剣で、優しい眼をして接してくれる彼の言葉を……。
それにしても、宇垣くんって心配症だよね。
画鋲の傷くらいで消毒だなんて。
そりゃ〝はしょうふう〟は恐いけどさ。
足の裏を彼に見せた、あの時の恥ずかしさがにわかに蘇ってくる。あんなふうに足を人に見せたことなんて、生まれて初めてのことだった。
それに、眼鏡を外した宇垣くんの眼は、ちょっと恐かった。いつもの優しい瞳とは、全然違った。見にくそうに眉間に皺が寄って、睨んでいるような裸眼だった。彼が人前で眼鏡取るのを嫌っているのも、わかるような気がする。
けど、そんな宇垣くんも、なんとなくいいなって思った。柔らかい表情ばかり見せてくれているから、ああいう一面がとても新鮮に感じられた。
あの瞳が、わたしの足の裏を見てたんだ。
彼はじっと、鋭く細い眼で、わたしを見ていた。それがなんだか恥ずかしかった。スカートの中にクォーターパンツを履いていたから下着を見られる心配は無かったのに。
耳が熱くなる。風呂のせいじゃ、ない。
宇垣くんは、なんとも思ってなかったのかな。
ドキドキしなかったのかな。
女の人の足を見るの、慣れてるのかな。
急に、脚の付け根あたりがムズムズしてきた。彼に見られていた時にも感じたものと、同じムズムズ。お湯の中で、無意識のうちに、わたしは両脚をこすり合わせていた。
「んっ――」
体の芯が熱い。
どうしてこんな感覚になるのだろう、と不思議に思う。自分の体のことなのに、このムズムズがどこから来るものなのか、そしてどう処理すればいいのか、全くわからなかった。
ひょっとしたら、何かの病気かもしれない。
かぶれちゃったのかな……。
不安になってくる。
「うーん……しょうがないか」
今度、保健室の夏目先生に相談しよう。
そう決めて、そろそろ身体を洗おうと真純は湯船から出る。立ち上がった時に、水面が激しく揺れて、ぴちゃぴちゃと鳴った。




