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「お前って、赤崎と付き合ってんの?」
塾の帰り道。夜の交差点で信号待ちをしていると、一緒にいた冬園がいきなり訊いてきた。
「――は?」
呆けていると、信号が変わった。
冬園が先に自転車を走らせる。ワンテンポ遅れて、智秀もペダルを踏み込む。
「どういう意味だよ、それ」
すぐに追いついて、併走しながら聞き返す。
「や、だから、そのまんまの意味だよ」
「……僕と赤崎さんが、付き合ってるって?」
「そ」
自転車の運転中、しかも今は夜道を走っているので、隣の冬園の顔を見ることができない。一体、どんな顔してそんなスットンキョウな質問を投げているのか、気になった。
「付き合ってるわけないだろ。何を言い出すんだ、急に」
「何を言い出すもクソも……」
車輪の擦過音に、冬園のため息が混じって聞こえた。
「そりゃ俺のセリフだ。お前、どうしたんだよ。朝のアレ」
どうやら冬園が言いたいのは、赤崎真純を柏原美里のグループから庇ったことについてのようだ。
「……べつに、どうもしてないよ。赤崎さんとは、単なるクラスメートだ」
「ウソつけ」
「嘘なもんか」
「じゃあ、どうしていきなり、あんな手の平返したように赤崎の味方になったんだよ。あのお前の口ぶりだと、ボクが彼女を守りますって言ってるようにしか聞こえなかったぞ」
批判するような口調で言われる。
けど、実際、赤崎真純をあのグループから守るという認識に間違いはない。否定する必要は、無い。
ただ――どうしても、頷けないことがある。
「付き合ってないのに守るのは、おかしいか?」
「……そりゃあ、あの赤崎だぜ? あいつの味方になったって、何も得することが無いだろ。逆に、周りから変な目で見られて、お前が孤立することになることだってあるぞ。損ばっかりじゃねーか」
彼の言い分を聞き終えた智秀は、内心で落胆した。そんな理由で、自分の行為をヘンと思われていたことが、遺憾だったのだ。
「僕はね、冬園、もう赤崎さんがツライ思いをしてるのを見たくないんだ。だから、これは損得の問題じゃない」
「お前――」
赤信号に引っかかった。
お互いに自転車を停止させ、そして、同時に顔を見合わせた。目の前を横切っていくヘッドライトに、冬園の表情が照らし出される。彼は複雑な表情をしていた。
「冬園」
さっきの冬園の言葉に対して、自信を持って言う。
「僕は、孤立なんてしないよ」
「……どうしてそう言えるんだ?」
今は持っていないけど、制服の胸ポケットには、ロザリオが入っている。青樹叶の分身である、大切なロザリオだ。
ロザリオを持っている限り、独りになることはあり得ない。
それに――
「僕が赤崎さんの味方になったからって、冬園は僕から離れて行くのか?」
「あ……」
冬園の驚いた表情が、暗闇に一瞬浮かんだ。それだけで、彼の返答は判断できた。
「だろ」
笑いながら言うと、冬園はため息をついた。
「お前って、やっぱ、ヘンなやつだよなァ」
「まさか。僕はいたって普通だよ」
「いーや、絶対ヘンだ。頭のイイやつってのは、昔から頭がおかしいって決まってるんだ」
聞いたこともない通説をぶちかます親友に、思わず笑いが込み上げた。




