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何事もないまま、帰りのホームルームが終わった。
先生が教室を出て行き、みんなが席を立ち始める。ほとんどの人がこれから部活に出るようだ。
「赤崎さん」
椅子から立ち上がったところで、宇垣くんが近くに来た。
「赤崎さんはこれからどうするの。部活?」
「うん……そのつもり」
あと少しで、部活も引退しなければいけない。たとえいじめられていても、好きな部活だけは、やっておきたかった。
「宇垣くんは?」
「僕はホントだったら、このまま家に帰るんだけど」
「けど?」
「……うーん」
宇垣くんはほんの数秒だけ、視線を宙に漂わせた。考え事をしているようだった。
そして、彼はわたしの顔に視線を戻して。
「一緒に帰らないか?」
「ふぇッ」
いきなりの言葉に、変な声が出てしまい、すぐに顔が燃えるように熱くなる。
「い、一緒にって、わたし、と、うう宇垣くんが?」
「うん」
宇垣くんはすごく落ち着いている。恥ずかしがった様子も、照れた素振りも見せない。女の子をこんな風に誘うのに慣れているのだろうか。
「どーして、そんな、急に……?」
「だって、さぁ」
そこで言葉を切って、彼は周りを一瞬見回したあと、小声でわたしに言う。
「赤崎さんが一人で帰るの、危ないじゃないか。もし帰り道で柏原さんたちに絡まれたりしたら、大変だろ」
「――」
そう、だ。
いじめは、まだ、無くなったわけじゃないんだ。
「赤崎さんが嫌って言うなら、僕はこのまま帰るけど……どうする?」
宇垣くんの眼鏡の奥の瞳が、わたしを見つめている。
「宇垣くんは、わたしが部活してる間、どうするの?」
「図書館で塾の予習でもして、時間つぶすよ」
視界の端に、教室を出て行く女子三人が、わたしの方を怪訝な目で見ているのが映った。
「……迷惑じゃ、ない?」
「全然。このまま一人で帰るのも、つまらないし」
「一人って……冬園くんは?」
「あいつはもう早々に部活に出たよ。ちなみに僕は帰宅部でさ。いつも一人で帰ってるんだ」
「そう、なんだ」
柏原さんは、恐い。
もし下校途中で彼女に捕まったら。
そう考えただけで、ゾッとする。
「じゃあ……お願い。わたしの部活が終わるまで、図書館で待ってて」
「うん、わかった」
わたしは鞄を手に持って、宇垣くんと一緒に教室を出た。




