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リビングへ入ると、お母さんが朝食を並べているところだった。食卓にはご飯と味噌汁が並べられていた。今朝は典型的な和食だ。
「あら」
わたしを見ると、お母さんは少しだけ驚いた様子だった。
「今日は、学校に行くの?」
「うん」
「……そうなの」
お母さんはあまり気にした素振りを見せなかった。キッチンの方へ行き、緑茶の入ったコップを持って戻ってくる。
「もう休まなくてもいいの?」
椅子に座ったわたしの前にコップを置いて、お母さんは優しい声で尋ねてきた。
その言葉とほほ笑みに、一瞬、決意が揺らぐ。
けど、わたしは笑って返した。
「うん……もう、大丈夫。お母さん、ごめんね、ずっと学校休んじゃってて」
「無理、しないようにね」
お母さんの表情が、ほんのわずか、暗くなった。わたしのことを心配してくれているようだった。
わたしがどうして学校を休んだのか、その原因をお母さんは知らない。
それで、いい。
「じゃあ、早く食べちゃわないと。時間無くなっちゃうわよ」
「え……あ、ホントだ!」
ニュース番組を映しているテレビの左上にある時刻表示を見て、すぐに箸を手に取った。
「いただきまーす!」
久しぶりの、制服を着たまま食べる朝食だった。
ありがと、お母さん。
何も訊かないでいてくれて。
いじめられてるって、知られたくないんだ。
だけど……もし、どうしても我慢できなくなったら、お母さんに相談するから。
それまでは――
時間が無かったので朝食をすぐさま食べ終えて、一通りの身支度を済ませると、駆け足で玄関に向かう。
靴を履く前に、鞄の中をもう一度のぞき込む。時間割を見間違えていないかどうかの確認をするためだった。休んでいたので、どうしても不安だったのだ。
えっと、一時間目は数学で……
上がり框に腰掛けて教科書をチェックしていると、後ろから階段を降りてくる足音が聞こえてきた。
「なんだ、真純、学校行くのか」
振り返ると、スーツ姿のお父さんがいた。大きな口を開けてアクビをしている。
「うん」
短く答えて、わたしはすぐに視線を鞄の中へ戻した。
六時間目の英語……ある!
よし、これで全部!
教材の過不足が無いことを確認し終えて、鞄のファスナーを閉める。
靴を履き、玄関を出る前にお父さんを振り返った。
「それじゃ、行ってきます!」
「ん……あぁ、車に気をつけるんだぞ」
お父さんは軽く手を上げて応えた。それを見てから、玄関を開け、家を出た。
今日も天気は晴れ。
朝陽が眩しい。
わたしは深呼吸して、学校への一歩を踏み出した。




