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息子の出て行ったドアを、宇垣毅は悔しそうな眼で睨んでいた。
何も言い返せなかった。
自分をまっすぐに見て、気持ちをぶつけてくる、あの息子の瞳に。
「あなた……」
妻の晶子は、いつものような不安げな声で、呼びかけてきた。それきりで、彼女は何も言ってこない。否、晶子は何も言えない。結婚し、智秀を育てる中で、彼女が自分の意志を主張したことなど記憶に無い。
毅は唇を噛んだ。
「初めて、だ――」
「え?」
「智秀が、俺に反抗したなんて……」
悔しさに、拳を机に叩きつけた。その音に晶子がびくっと震えた。
「今まで、一度だって、こんなことは無かった……!」
ついこの間までは言われることを素直に受け止めてくれた息子が、自分に噛みついてきた。
聞き分けのいい息子が、親である自分に逆らうなんて、信じられなかったし、許せなかった。
「いったい、何があいつを変えた……!」
毅は晶子を横目で見た。妻は怯えたような瞳で、自分の膝元を見ているだけだった。




