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「今日は、学校どうだった?」
夕食の席で、母はいつもの質問を投げかけてきた。わたしはすぐに笑って答える。
「みんなと修学旅行のこと、話したよ。楽しみだねーって」
作り笑いが、最近上達した。毎日毎日、家では笑っているようにしているからだろう。
いじめられてることは、知られたくない。だから、両親には何も問題無いようなフリをしている。そうやって、ここ三週間くらいを過ごしてきた。
「そう」
母は何も怪しむことなく、ほほ笑んだ。
「修学旅行はどこへ行くんだ?」味噌汁をすすって、父が質問してきた。
「まだわかんない。六月になったらわかるんじゃないかな」
さすがに食欲まではごまかせない。
食べる気になんて全然なれなかった。ムリヤリ全部食べようとすると、気持ちが悪くなってしまう。家でまで、吐き出してしまいそうになるのは嫌だった。
「ごちそうさま……」
ご飯も半分ほど残したまま、わたしはお箸を置いた。
「もういいの? 最近、ちょっと小食気味じゃない?」
まだ食べている最中の母が心配そうに言ってくれる。
「ダイエットとかなら、しなくてもいいのよ」
「そうだぞ。中学生がダイエットなんてしてると、将来ロクな体にならないぞ」
お母さんとお父さんは、そんなことを口にした。
二人の心遣いが、いまはすごく苦しい。
「そんなんじゃないの。ただ、あんまり食べる気しなくて。残しちゃって、ごめん。ごちそうさま」
足早に食卓を離れて、自分の部屋に戻る。ドアを閉じると、すぐにベッドにうつぶせに倒れ込んだ。
――何もかもがつらかった。
死んでしまいたいほどつらかった。
学校へ行くのも。
両親に嘘をつき続けるのも。
ぜんぶ、つらかった。
他の人は、普通に学校で過ごしている。
みんなとおしゃべりしたりして、笑っている。
なのにどうしてわたしだけ、いじめられないとダメなの?
わたしだって、みんなと前みたいにおしゃべりしたいよ。
そしてわたしは、また今日も、枕に顔をうずめたまま泣き始めた。