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「それで――」
椅子に座ると、早速、智秀は口を開いた。
「さっきの電話は、なんだったの? やっぱり学校のこと?」
「うん」
いつものように、赤崎真純はベッドに腰掛けていた。
「どうするか、決めたんだね?」
「……うん」
真純は手元に枕をたぐり寄せると、胸元に抱いた。
そして伏し目がちに智秀を見て。
「わたし、明日から、学校行く」
そう、ハッキリと口にした。
「赤崎さん……」
驚きで、言葉が上手に出てこなかった。
すると真純の眉が不安そうに寄った。
「ダメ、かな?」
「ううん、全然! ダメだなんて、僕は思ってないよ。ただ……」
驚いているのをなるべく面に出さないようにして、尋ねる。
「どうして、急に学校に行くって決めたの?」
「……ホントはね、転校するっていうのも、考えてたんだ。そうすればいじめも無くなって、また新しい学校生活が送れるって。けど、やっぱり、わたしはそんなの嫌なの」
真純は顔を上げて、まっすぐにこちらを見つめてきた。
「今まで友達だった人達と別れて、このまま終わりにするのは、嫌なの。また前みたいに、みんなと楽しくおしゃべりしたい。だから、もう一度、頑張ってみようって思ったの」
強い瞳で、彼女は決意を訴えた。
「そっか……うん、そうだね」
赤崎真純の言葉に、力強く頷く。
行けば傷つくと知っていて、なおその道を行く。
それが赤崎さんの選んだ道だというのなら、
僕は全力で応援しよう。
応援するよ、と。
智秀は言葉をかけようとした。
が、それよりも早く、真純のほうが口を開いた。
「でも、ね……やっぱり、恐い」
ぽつり、と。
心細そうに言って、真純は唇を枕に押しつけた。
「またあの、柏原さんたちにいじめられるのが、恐い」
一転して彼女の瞳には怯えの色が滲む。
ああ……やっぱり、恐いんだ。
きっと、真純は楽観などしていない。宇垣智秀が近くにいたところでいじめは無くならないと、わかっている。友達とまた以前のような関係に戻れる保証も無い。
それでも。
学校へ行くと決めたのだろう。
逃げ出したい気持ちを必死に抑えて。
「ね、宇垣くん。お願いがあるんだけど」
「なに?」
「もう一度、わたしに言って」
すがるような視線が向けられる。
「言うって、何を?」
「あのね……」
「うん」
「学校でもわたしの味方……って」
思いがけない言葉に一瞬、面食らった。
「そんなの改まってお願いしなくてもいいのに」
おかしくて、少し笑ってしまう。
真純は恥ずかしそうに目を伏せて黙っていた。
そんな彼女に、笑いかける。
「味方だよ。学校で、僕は絶対に赤崎さんを独りにしない。周りがなんと言おうと、僕は赤崎さんの味方だ」
宇垣智秀の言葉を、真純は瞳を閉じて、大事そうに聴いた。
「……ありがと」
真純は瞳を開けて、照れたように笑った。
つられて、智秀も照れてしまう。
お礼を言われるほどのことじゃないんだけどなぁ。
彼女は安心しきった、柔らかな表情をしている。
「宇垣くんの言葉って、不思議」
「え……そう?」
「うん。なんだか、すっごく優しい感じがするの。不思議。どうしてだろうね」
「どうしてって……」
返事に困る。
言葉が優しい、なんて言われたことは今まで無かった。
「なんて言うか、宇垣くんに味方だよって言われると、本当にわたしは独りじゃないんだって思えるの。あの人たちも、同じ〝言葉〟を使って、わたしをいじめてるのに」
幸せそうに笑って、真純は言う。
「宇垣くんが優しいからかな?」
「……さぁ、どうだろ」
脇をくすぐられたような恥ずかしさに襲われて、つい真純から視線を逸らしていた。




