12
足早に階段を降りて、一気に玄関まで走った。施錠されていた二つの鍵を、両手で一気に解錠する。親に見つからないためにも、素早く動かなければいけなかった。
ドアを押し込む。そのとき。
背後から足音が聞こえてきて、思わず振り返った。
「智秀……!?」
母親だった。
やせ気味の体躯でいつも気の弱そうな表情ばかりしている母親は、今も、困惑した表情でこちらを見ていた。
「どこに行くの、こんな時間に!?」
「……どこだっていいでしょう」
「いけません!」
叱咤される。けれど、父親ほどの凄味は無い。
「こんな夜遅くに外出なんて、お父さんもきっと許しませんよ!」
自分の力のみでは説得できないとでも思ったのか、夫を引き合いに出してきた。
父親と聞いて、わずかにたじろぐ。が、すぐに叶の顔を思い浮かべて、勇気を出す。
「父さんがなんと言っても、今回は、聞けません」
母親の顔に焦りの色が広がっていった。
こうなったら母親になんて構っていられない。どうせ話したところで止められるのだ。
何も言わずにドアを開ける。
と――廊下の奥から騒々しい足音が近づいてきた。
「智秀!」
今度は父親がやって来た。玄関の言い合いを聞いて風呂場から飛び出してきたのだろう、股ぐらを薄いタオル一枚で隠した以外は全裸という、ひどく間抜けな姿だった。
中年太りしてきたのか、腹が出ている。
「智秀、どこへ行く気だ、勉強はどうした!?」
服があってもなくても、怒声だけは変わらない。
家の外にまで声が漏れていくかもしれないので、一旦開きかけた玄関のドアを閉めた。
「……まだ、あと少し残っています」
「だったら、外に出るのは許さん! いや、そもそも、もう子供が外に出ていい時間じゃない!」
父親の顔は真っ赤だった。風呂で煮立ったからか。それとも、憤怒からか。
どちらにしても、激怒しているのは火を見るより明らかだ。
怒る父親はひどく恐かった。
けど。
智秀は玄関のドアを無言のままに開けた。
「智秀!」
父親の張り裂けそうな声が、外の暗闇に吸い込まれていった。
半歩、ドアの外に踏み出したところで、父親を振り返る。
「……止めるというなら、追いかけてきてもいいですよ。ただし、そんなカッコウで外に出られるなら、の話ですけどね」
それだけ言い捨てて、一気に外へ躍り出た。
夜の道を全力で走り始める。
閉じていくドアの向こう側から、名前を呼ぶ父の声が聞こえていた。
胸が熱かった。




