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聖堂を出ると、神父の言葉に従って、すぐ右手の建物に向かう。

細長い箱のような、こぢんまりとした二階建ての建物だった。どことなく公民館のような雰囲気がする。

ガラス張りの扉が出入口だった。

中に入って、まず上がり框があった。

靴を脱いで、そばに並べてあったスリッパに履き替える。


階段は……。


人気のない、薄暗い廊下を歩いていく。〝洋室1〟や〝和室1〟などのプレートがかけられたドアをいくつか過ぎたところで、階段があった。二階へ上ると、すぐに〝図書室〟は見つかった。

ここだ。

「失礼します……」

ドアをゆっくり開けて、恐る恐る図書室に入る。職員室に入る時のように声を出してしまったのは、緊張からだった。

図書室の作りは、学校のそれとそっくりだった。木製の本棚が何列も並び、細長い机にパイプ椅子で席が設けてあった。智秀以外の利用者は見当たらない。

「こんにちは」

入ってすぐ横の受付のような席に、事務員らしき年配の女性が座っていた。図書の貸し出しの受付だろう。

「……こんにちは」

緊張しながら返事をすると、足早に受付の前を通り過ぎ、窓際の席に向かう。

座ってみると、たしかに、教会の門と青樹叶の家が見えた。神父の教えてくれたとおり。ここなら叶の帰りを待つにはもってこいだ。


なにか読もうかな。


ただボーッと外を眺めているのも暇なので、席を立って、本棚に並んでいる背表紙を見ていく。

『詩編で語る』

『わたしは渇く』

『ゆるしの秘跡』

『聖母マリアの祈り』

本棚に入れられた本は、全てキリスト教に関するものだった。

ここは教会なのだから当然なのだろうが……。


僕の読める本が無いぞ。

どうしよう。


しばらく本棚の前をうろつき、結局、当たり障りのない『新約聖書』を手にとって席に戻った。

窓の外を見て、まだ叶が帰ってきていないことを確認してから『新約聖書』を広げた。

目次を見る。

マタイによる福音書

マルコによる福音書

ルカによる福音書

ヨハネによる福音書

「…………………………む」

目次で目が丸くなる。


福音書?

なんで四つも同じのが?

オムニバス?


目次には他にも似たような項ばかり載っていて、そこでいきなり疑問だらけになってしまった。

予備知識無しに聖書を手に取ったのは無謀すぎたようだ。赤ん坊に因数分解をさせるようなものかもしれない、と自嘲してしまう。

試しに『マタイによる福音書』というのを十ページほど読んでみたが、今ひとつ内容が読み取れなかった。キリストらしき男性の宣教の様子が記されているようだったが、人名や地名など、詳しいところはさっぱり解らなかった。

今の自分では読解は無理と判断して、『新約聖書』を本棚に戻した。

椅子に座り直す。

叶はまだ帰っていない。

しかたなく、窓の外を眺めていることにする。


それにしても。

ホントに、僕はキリスト教のことを何も知らないんだな。


キリスト教。

名前だけなら知っている。けど、その内容を全く知らない。

宇垣智秀に『新約聖書』が読めないのは、当然だった。


英単語を知らなかったら、英文を読めない。

そういうことだろうな。


夕日に染まり、景色の所々に暗い闇が現れている。

青樹叶だったら、と思う。

彼女なら、『聖書』どころかキリスト教のどんな本をも理解できるのだろう。

宇垣智秀の知らないことを知っている彼女を、素直に尊敬できた。

そんなふうに彼女のことを考えていたら、門から一台の自転車が走り込んできた。

「――あ」

自転車に乗っているのは、制服姿の青樹叶だった。


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