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家に帰る頃には、わたしはもうボロボロだった。
体ももちろん、心だって、すり減っている。
学校では休み時間の度に、あのグループがわたしのところに来て、髪を引っ張ったり、体を殴ったりして行った。掃除の時間はほうきで叩かれた。教室では大声で陰口を言われた。
学校から帰るこの瞬間が、わたしにとっては一番の幸せの時だ。全ての苦しみから解放されたような、安らかな時間。
けど、それが一瞬の安息であることを、わたしは知っている。
わたしには、明日がある。
明日もまた、学校がある。
だから、わたしは喜べない。
「ただいまー」
家に帰ると、リビングにいるお母さんとは顔を合わせず、すぐに自分の部屋に駆け込む。
夕暮れ時の部屋は、薄暗く、物寂しい。
ドアの横のスイッチを入れ、部屋に明かりを点ける。
机のそばに鞄を置くと、カーテンを手早く閉めた。これで外から見られる心配はない。
わたしは制服のリボンをほどき、ベッドの上に放った。
制服を上下とも脱ぎ、手にとってじっくり見る。
紺のセーラー服は、埃っぽかった。あれだけ床にこすりつけられたのだから、当たり前だった。目をこらすと、背中のあたりにはうっすらと上履きの足跡が見える。しっかり手で払っておく。
ちゃんと、消しておかないと。
じゃないとお母さんにバレちゃう。
上着と同色のスカートは、それほど汚れていなかった。念のため軽く手で埃を払い落として、ハンガーにかけておく。
普段着を着る前に、姿見の前に立つ。
鏡の中には、水色の下着と白色の靴下だけを身に着けたわたしがいる。太っても、痩せてもいない体型の女の子。そのお腹のあたりを見る。目立った傷跡は、ない。
前はオッケー、と。
次に鏡に背を向け、今度は背中をチェックする。アザが、いたるところにあった。右のふとももの外側にも、一個見つけた。ミニスカートだったら、ひょっとしたら見えてしまうかもしれない。
とうぶん、ミニスカは無理かァ。
レギンスならごまかせるけど……。
着たい服も、この傷跡のせいで着れないなんて。
治っても治っても、どんどん増えていくアザ。消える前に、新しいものが作られていくせいだ。
「いつまで……続くんだろ」
鏡の中の自分に問いかけてみても、返事なんてあるはずもない。
わたしは普段着に着替えると、しばらくベッドに寝転がっていた。