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お昼ごはんは、お母さんと一緒に近所のイタリア料理の店で食べることになった。お母さんが「たまには外で食べよう」と言って、わたしを誘ったのだ。
パジャマから外行きの服に着替えて、家を出る。
そんな行為が、なんだか懐かしく感じられた。
家の中にずっといたせいで、太陽がすごく眩しかった。
店に入ると、お母さんは月刊のファッション誌を持って、窓際の四人がけの席に座る。
「真純と二人だけの食事なんて、久しぶりね」
「そう、だっけ」
わたしは緊張していた。平日の昼間に中学生が外を出歩いていいのかな、とビクビクしていたのだ。
けど、お母さんはノンキにメニューを広げて、注文を考えていた。
「平日限定のコースねぇ……。これにしてみようかしら。レディースペアコースもいいわね。うーん、悩むわ。真純は何にする?」
「え、っと……わたしは――」
注文をし終えると、お母さんは持ってきた雑誌を開いて読み始めた。わたしは手持ちぶさたになって、コップに注がれた冷たい水を少しずつ飲む。
周りの席は主婦の人達で賑わっている。小さな赤ちゃんを連れた母親もいる。
わたしと同い年くらいの人はいない。
当たり前だ。
普通だったら、今頃は学校に行っている時間なのだ。
「真純は何も読まなくていいの?」
ふと対面から尋ねられた。
「あ……うん。特に読みたいの、無かったし」
「そう」
ページを捲るお母さん。その表情は穏やかだ。
怒っていない。学校へ行かないわたしを、お母さんは怒らない。
学校に行かない理由を問い詰めることもしてこない。
それが、気楽でもあり、心苦しかった。
「ねぇ……お母さん」
「うん?」
「お母さんは、どうして学校に行ってたの?」
朝に抱いた疑問を、ふと尋ねてみた。
お母さんは雑誌に目を落としたまま。
「どうしたの、急に」
「ちょっと……気になって」
「――そうね」
お母さんは顔を上げて、わたしを見つめる。いつもみたいに冗談っぽく笑っていた。
「友達がいたから、かな」
「……それだけ?」
「うん、それだけよ。他に理由なんて、思いつかないわ」
「嫌なこととか、無かったの?」
「もちろん、あったわよ」
明るい口調で答えられた。
「お母さんはね、勉強が嫌いだったし、仲の悪い人たちと顔を合わせるのが毎日イヤだったわ。けど、そんなものなんかよりも、友達と会えることのほうが大事だった。昨日のテレビの話とか、好きな人のこととか。そういうおしゃべりが楽しみで、学校に行ってたのかな」
楽しそうに、思い出をなぞるように、お母さんは答えてくれた。
「友達――」
そういう人達も、ちょっと前までわたしの近くにいた。
けど、今はもういない。みんな、わたしから離れていってしまった。
「答えになったかしら?」
「……うん、ありがと、お母さん」
それからすぐに前菜のサラダが運ばれてきて、食事になった。
お母さんの言葉を聞いて、一ヶ月前を懐かしく感じた。
友達……かぁ。
わたしにも、いたんだよね。
たくさん話して。
たくさん遊んで。
気にしていなかったけど、いま振り返ると、毎日が楽しかった。
もう、前みたいには、話せないのかな。
友達と笑っていられた日々が、遠い過去のように感じた。
もし、あの頃のようにまた戻れるなら。
わたしは――。




